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第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(国別パビリオン)レポート

11月24日まで開催中の第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展。今年の国別パビリオン参加数は88、コラテラルイベントは30もある。これらの国々と美術関係者が2年に一度集まる機会を、自国に影響を与える長期的な芸術文化政策の一環として投資する初参加国、また、例年注目される先進国の展示に見られる時代の移り変わりについて、引き続き現地からレポートする。

文・撮影(クレジット表記のない写真)=飯田真実

ナイジェリア館「Nigeria Imaginary」の展示風景より、Precious Okoyomon 《Pre-Sky / Emit Light: Yes Like that》 (2024)Photo by Andrea Avezzù. Courtesy of La Biennale di Venezia

アフリカの風──ナイジェリア、ベナン(初参加)

 企画展レポートでもふれたオクウィ・エンヴェゾーやインカ・ショニバレを輩出したナイジェリアが2017年ぶりに復活し、アフリカ勢のなかでもっとも野心的な展示を見せていると話題になっていた(*1)。「Nigeria Imaginary」と題した企画展は、同国の過去と現在に向き合う視点を見せながら未来を想像させる。8人のアーティストによる絵画や彫刻、サウンドインスタレーション、AR作品などの表現に、独立後に設立され分野横断的な文化活動の中心として機能した「ムバリ・クラブ(*2)」の感性を呼び起こさせた。キュレーターのエインドレア・エメライフは世界に着想を与えるアフリカの再定義と同時に、現代ナイジェリアのアーティストたちにとっても刺激になる場を目指したという。植民地時代の英国や現在の国内警察による暴力を証言する作品のいっぽうで、今冬に開館予定の西アフリカ美術館(ナイジェリア館の主催者で、エメライフも学芸員として所属)の模型が展示され、南部の旧首都ベニン・シティが新たな文化発信地となることを予告している。

 いっぽう、ナイジェリア出身のキュレーターであり、アフリカ芸術家財団やラゴス・フォトフェスティバルの創設者としても有名なアズ・ヌワグボグが初参加のベナンを率いた。アルセナーレ会場の一角で、「Everything Precious Is Fragile」というテーマのもと、世代の異なる4人のアーティストと植民地時代以前の自国の哲学に立ち返り、フェミニスト的解釈による世界の再認識「rematriation(*3)」の考察を促す。プラスチック容器を用いた仮面作品で有名なロミュアル・ハズメによる記念碑的ドームを中心に、より若いイショラ・アクポやムフリ・ベロによる女性のエンパワーメントを称える絵画、クロエ・クヌムによる繊細な吹きガラス製の楽器によるインスタレーションが並ぶ。国内資源が少なくGDPがナイジェリアの25分の1以下のベナンだが、コトヌー現代美術館を中心とした文化創造地区などの大規模プロジェクトを予定しており、ビエンナーレに約80万ユーロ(約1億3500万円)の予算で挑んだという(*4)。

ベナン館「Everything Precious Is Fragile」の展示風景
Photo by Jacopo La Forgia. Courtesy of La Biennale di Venezia

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