2023年1月、大手町に一風変わった私設博物館が開館した。その名は「絶滅メディア博物館」。館内には8mmフィルムカメラ、ビデオカメラ、フロッピーディスク、携帯電話やPHS、カセットプレーヤーなど、かつてはポピュラーだったものの、いまでは使われることがほぼなくなったメディア機器がジャンルごとに整然と並ぶ。都心の一等地になぜこの博物館が生まれたのだろうか?
あまりふり向かれない「絶滅メディア」専門の博物館
絶滅メディア博物館は大手町と神田のあいだ、東京都千代田区内神田に位置する。この博物館はその名が示す通り、絶滅、あるいはほぼ絶滅に近い状態のメディア機器を収集・保管・展示する博物館だ。
1916年生産の小西六本店(現コニカミノルタ)のリリーカメラや、1922年生産の9.5ミリフィルムカメラ「パテ・ベビー」などの戦前の機器から、2016年にAmazonが発表したもののあっという間に生産中止になってしまった日用品を購入できる「Dashボタン」まで、その展示品はバラエティ豊かだ。
うれしいことに、この博物館ではほとんどの展示品を実際に手にとって鑑賞できる。上下左右あらゆる角度から見ることができるだけでなく、機器の重みや素材の質感を実感でき、カメラ類は実際にファインダーを覗くことも可能だ。「最近は海外からの訪問も増えています」と語るのは、同館館長の川井拓也さん。川井さんの本業は映像ディレクターだが、決してコレクターというわけではない。約2000点の収蔵品も8割が寄贈されたものだという。では、なぜ博物館をつくり上げたのだろうか?
絶滅メディア博物館は、川井さんが運営する貸しスタジオ「ヒマナイヌスタジオ大手町」に併設されるかたちで運営されている。「2020年にここでスタジオをオープンしたとき、この場所は演者さんの控室でした。当時、棚には僕が持っていた古いカメラを並べていたのですが、そのカメラを見た方が古いカメラを持ってきてくれるようになった。そうしているうちにカメラがどんどん増えていって……。まてよ、これは面白いな、と」。そして川井さんは「紙と石以外のメディアはすべて絶滅する」という考え方にもとづき、すでに滅んでしまった、もしくは滅びつつあるメディア機器や周辺の資料の博物館づくりを思い立つ。
「撮影スタジオは四六時中利用者がいるわけではありませんし、スタジオを利用しない人にもこの場所に来てもらいたい。そこで改装して博物館にしようと思いつきました。じつは、この場所はスタジオとして借りる前はインテリアショップでした。展示に使っている棚は、お店だったころの名残です」と川井さん。
現在の収蔵点数は約2000点。その8割が寄贈品だという。構想を発表した当時はコロナ禍。家の中で断捨離を敢行する人が多かったこともあり、あっという間に“絶滅メディア”が川井さんのもとに集まってきた。「機器と機器との間を埋めるためにこういうものもあった方がいいとか自分が考えて、地方のハードオフまで探しに行く感じで集めています」。そして、約1年の準備期間を経て開館にこぎつけた。開館までに10年以上かかることも珍しくない博物館、美術館づくりを考えると破格のスピードだ。