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現実と夢が混在した心象風景を描く画家・工藤麻紀子。国内美術館初の個展がスタート

日常生活で出会った風景を組み合わせ、ダイナミックな画面構成で描く工藤麻紀子。学生時代の作品から最新作まで、インスタレーションも含めて140点余りの作品を集めた「工藤麻紀子 花が咲いて存在に気が付くみたいな」と題する個展が、平塚美術館で始まった。

文・撮影=中島良平

工藤麻紀子

 大学在学中より注目され、現代の絵画表現を紹介するグループ展などにも継続的に選出されている工藤麻紀子は、日本のアートシーンを語るうえで欠かせない画家のひとりに数えられている。鮮やかな色彩とポップなイメージを組み合わせた作風でデビュー当初に脚光を浴びたが、無意識に見たものを吸収してしまうという彼女が、実際に目にし、体験した世界がキャンバスに写し出されているのだという。

展示風景より、会場入口から見えるのは《きりかぶごめん》(2007)
展示風景より、左から「GEISAI」で小山登美夫賞を受賞した《よなような》(2001)、学部の授業で描いた《Untitled》(1999)
展示風景より、左から《まいご》(2001)、《もうすぐ衣替え》(2003)

 「工藤麻紀子 花が咲いて存在に気が付くみたいな」は基本的に制作年の時系列で並ぶが、60点を越すキャンバスのペインティング作品のうち、約半数が2021年と2022年に描かれた作品だというから、その筆の速さには驚かされる。しかも、作品それぞれに世界観が共通していながらも、タッチや色使い、画面構成など、異なる技法を試している様子も画面から感じられる。工藤は「20年ぶりぐらいに見る作品もある」と笑いながら、初期作から最新作までが並ぶ展示について次のように話す。

 「昔の作品を見ると感傷的になったりするのかとも思っていたのですが、意外と冷静で、人から言われる時期ごとの絵の変化などについても、客観的に見ることができました。昔の作品は結構黒を多く使っているなとか、色がぶつかる感じを楽しんで描いていたんだなとか、あとはタッチの粗さも見えたりもしましたが、そういう過去作品を見て感じたことを、また新しい制作に取り入れてもいいのかなとも思いました」。

展示風景より
展示風景より
展示風景より
展示風景より

 工藤の作風を特徴づけているもののひとつが、色面による構成と装飾的な表現による画面のバランスだと言えるだろう。視点を混在させた構図やコラージュのようなモチーフの配置などが、日常生活で見た要素でありながら、夢のようであり想像力との対話を促すような世界となって表出する。

 「昔はできあがる絵を早く見たいという思いが強くて、急いで描くことが多かったように思います。だからタッチが粗いのかな。こうやって過去の作品を見ると、苦労して描いたことが蘇ってきます。ふと見た自然や光をヒントに描き切ることができたり、別の作家の絵を見たことがヒントになって描きたいイメージをかたちにできたりした部分などを思い出しました」。

展示風景より、《空気に生まれかわる》(2020)
展示風景より、《春から夏の思い出》(2021)
実家の母親から、「洗った筆を拭く用に」と送られてきたハンカチを支持体にした作品など、2022年に手がけた小型作品が並ぶ
展示風景より

 作品を見ていると、そこには記憶とともに紡がれたストーリーがあるようにも感じられるが、「ストーリーはなくて、すべて見る人に委ねています」と工藤は話す。

 「大規模な個展を開催して、いま制作に勢いがある状態でもあるので、いまは故郷である青森がモチーフの作品のイメージがたくさんあります。雪の景色であったり、リンゴであったり、描きたい絵は本当にたくさんあります。あと、最初のころは水の表現がうまくできなかったのですが、最近は少し描けるようになってきたのでもっと描きたいと思いますし、建物もそうですね。以前よりも描けるようになってきている実感があるので、どんどん描きたいと思っています」。

 表現の変遷をたどっていると、ふと展示前半に見たモチーフやタッチが後半の作品に表れるなど、ひとりの画家のイメージの移ろいを存分に楽しめる展示だ。見応えのあるこの展示を味わったあとには、「次が見たい!」という期待が大きく膨らむに違いない。

展示風景より
展示風景より。マーカーや鉛筆などの作品もすべて2021年と2022年の制作
展示風景より

編集部

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