パブロ・ピカソがオリジナリティを初めて確立した「青の時代」を原点に、国内外の名作約70点によってピカソの画業をとらえなおす大規模展が、ポーラ美術館とひろしま美術館で開催される。会期はポーラ美術館が9月17日〜2023年1月15日、ひろしま美術館が2023年2月4日〜5月28日。
「青の時代」とは、ピカソが20歳から23歳の頃、青を主調色に貧しい人々の姿を描き、生と死や貧困のテーマの深奥に踏み込んだ時代のことを指す。バルセロナとパリを往復しながら生活し、親友カサジェマスの自殺を経て、 精神的な苦悩に向き合ったピカソ。自身も困窮しており、この時期に制作された絵画の多くは、 同じキャンバスに何度も描き直しがなされているのが特徴だ。本展を企画するポーラ美術館とひろしま美術館は、ともに「青の時代」の最重要作である《海辺の母子像》(1902)と《酒場の二人の女》(1902)を各館の代表作として収蔵している。
本展は、この「青の時代」を初期の一様式としてではなく、「キュビスム」をはじめ革新的な表現を次々と生み出していった画家の原点としてとらえなおすもので、「プロローグ. 1900 年の街角―バルセロナからパリへ」「I. 青の時代 ―はじまりの絵画、 塗重ねられた軌跡」「II. キュビスム―造形の探究へ」「III. 古典への回帰と身体の変容」「IV. 南のアトリエ— 超えゆく絵画初期から」の各章によって、「青の時代」を超えた晩年までの画業をたどる。
新たに判明した事実も
本展の大きな特徴は、最新の研究成果が反映されている点だ。上述のように、「青の時代」のピカソはキャンバスの再利用を頻繁に行っており、 この時期の多くの絵画の下層には、異なる構図の絵画が隠されていることがわかっている。本展のハイライトである《海辺の母子像》についても同様で、2018年時点でその下層部に新聞紙が反転した状態で貼付されていること、女性と子供の像が描かれていることがわかっていたが、調査を進めるなかで、さらに下層に子供や酒場の女性、男性とビールジョッキがそれぞれ描かれていることが判明した。
また2022年にはひろしま美術館とワシントン・ナショナル・ギャラリー、フィリップス・コレクションの研究者との共同調査により、《酒場の二人の女》の下層にうずくまる母子像と思われる像が描かれていたことも発見。この調査により、《海辺の母子像》と《酒場の二人の女》には「酒場の女性像」「母子像」という同じモチーフが描かれていたことが新たに判明している。
また2018〜2022年にかけ、バルセロナ・ピカソ美術館とポーラ美術館、ワシントン・ナショナル・ギャラリーの3館の研究者の共同調査により、《鼻眼鏡をかけたサバルテスの肖像》(1901)の画面にも、《海辺の母子像》と同じ日付の新聞紙の文字が残されていたことが特定。これによって、《鼻眼鏡をかけたサバルテスの肖像》が《海辺の母子像》と同じ足取りをたどったことも明らかになったという。
なお本展では、《海辺の母子像》をはじめとする「青の時代」の絵画作品の光学調査が明らかにしたピカソの制作の軌跡が、特別な映像を通して会場で紹介される。ピカソ作品の制作背景に迫ることができる、貴重な機会となるだろう。