キュビスムの大家であるパブロ・ピカソ、その女性に対する扱いに抗議するため、スペインの美術教授であるマリア・ロピスとその学生たちが、バルセロナにあるピカソ美術館でサイレントデモを行った。
バルセロナの美術学校エスコーラ・マッサーナで「アートとフェミニズム」コースを教えているロピスが企画した今回のデモでは、参加者たちが「Picasso, women abuser(ピカソ、女性虐待者)」「Picasso, la sombra de Dora Maar(ピカソ、ドラ・マールの影)」と書かれたTシャツを着て美術館を訪ねた。
このデモの目的についてロピスは「美術手帖」の取材に対し、「声を上げるため、実際に起こったことを話すため、創造性を伸ばすことができなかった多くの女性アーティストの真実を語るため、ドラ・マールのため、虐待的な関係に巻き込まれて創造力を失ったすべての女性のため、私の母のため」に行われたものだとしつつ、次のように話している。
「私たちは(アートとフェミニズムに関して)様々な研究を行っていますが、そのうちのひとつは、成功した男性アーティストと関係を持ったために芸術活動を続けることができなかった女性アーティストの作品を研究することです。例えば、アルマ・マーラー、ジャンヌ・エビュテルヌ、カミーユ・クローデル、そしてドラ・マールなど。ドラ・マールはピカソと出会ったとき、シュルレアリスムの写真家として成功していました。ピカソは彼女に写真をやめるように勧め、ふたりは精神的な虐待関係になっていきました」。
ロピスによると、美術館のスタッフは抗議者の後ろについてきたものの、声をかけるなどの行為はなかった。しかし、このデモに対するSNSの反応は大きく、Instagramはロピスの個人アカウントを削除したという。「ドラ・マールの作品やピカソと女性との関係を可視化しようとしたことで、私の作品は不可視化されてしまいましたが、これは私たちがいかにこのようなアクションを必要としているかを示しています」。
ピカソに関しては、2018年にパフォーマンスアーティストのエマ・サルコヴィッチがニューヨーク近代美術館にあるピカソの絵画《Les Demoiselles d'Avignon》の前でデモを行い、同年末にはアーティストであり活動家でもあるミシェル・ハートニーがメトロポリタン美術館でピカソの絵画の横に、ピカソの発言とされる言葉が書かれたキャプションをつけて抗議した。
今回のデモについて、ピカソ美術館館長のエマニュエル・ギゴンはArtnet Newsに対して「美術館で人々が自分自身を表現することは素晴らしいことです。それは議論が行われるべき場所なのです」とコメント。なおロピスは、ピカソと一緒にいた女性たちの作品に特化した企画展をピカソ美術館に提案しており、同館は「ジェンダーの視点から見たピカソ」をテーマにした講演会も企画しているという。