ヨーロッパの美術史を素地としたユニークな表現で世界的な評価を得る、ミヒャエル・ボレマンスとマーク・マンダース。美術館では世界初となる2人展「ダブル・サイレンス」が、金沢21世紀美術館で開催される。会期は9月19日~2021年2月28日。
ボレマンスは1963年ベルギー生まれ。写真、製図、エッチングなどのメディアから、30代で本格的に絵画に転向。ベラスケスやマネなど伝統的な西洋絵画の技法とテーマに強い関心を寄せ、絵画を想像的な世界の窓を開く普遍的な言語としてとらえている。日常に潜む不穏やさ危うさを、曖昧で矛盾に満ちた画題で表現し、近年は絵画から派生した映像作品も制作する。
いっぽうマンダースは1968年オランダ生まれ。86年から「建物としてのセルフ・ポートレイト」をコンセプトに制作を行う。それぞれをどのように「想像上の部屋」に収めるかによって有機的に変化し続るインスタレーションは、ある瞬間に凍結されたような不朽性や普遍性を含み、見る者に静寂と不在を感じさせる。
ふたりは互いの作品選びや同館の建築・展示空間にあわせた構成など、キュレーターと対話を重ねながら本展の構想を練ったといい、会場にはあわせて80点あまりの作品が集結する。
ボレマンスによる《オートマト(I)》(2008)は、上半身だけの少女を描いた作品。もともと構想していたスカートだけが自動回転する彫刻は《Skirt Sculture》(2014)に結実し、それ以外にも同テーマでドローイングや油彩、35ミリフィルムなど様々なバリエーションが発表された。
そのほかにも本展では、2002年から07年にかけてボレマンスが好んで描いた、オランダ風の屋根に数え切れないほどの窓がついた家をモチーフにした《機会の家(生涯のチャンス)》(2003)や、人物を描いた代表作《天使》(2013)などを展示する。
またマンダースは、本展のなかでもっとも初期に制作され、作家活動を開始したときからのコンセプトを副題に含む重要な一点《狐/鼠/ベルト(建物としてのセルフ・ポートレイトからの断片)》(1992-93)のほか、人物の顔に4つの黄色い木片が垂直に差し込まれた最新作《4つの黄色い垂直から成るコンポジション》(2017-19)、言語に関わる実践に繰り返し現れるモチーフである新聞を用いた《2色のコンポジション》(2005-20)などを出展する。
静寂や沈黙のなかで、ふたりが作品を通して対話を交わす本展。人間の暗部を描き出すボレマンスの絵画と、身体的な断片が特徴的なマンダースの彫刻が語りかける物語を味わいたい。