深瀬昌久が表現する家族写真へのアイロニー。『家族』新装版の刊行記念展がPOSTに巡回

写真家の深瀬昌久(1934~2012)。2019年9月には、深瀬が生前に手がけた最後の1冊である写真集『家族』が、イギリスの出版社「MACK」より新装版として刊行された。現在その刊行記念展が、東京・恵比寿のPOSTで開催されている。会期は12月8日まで。

深瀬昌久 『家族』特装版 (C)Masahisa Fukase Archives

 「私性」と「遊戯」の視座に根ざした表現を探求し続けた写真家の深瀬昌久(1934~2012)。2019年9月には、深瀬が生前に手がけた最後の1冊である写真集『家族』が(1991、Inter Press Corporation)、イギリスの出版社「MACK」より新装版として刊行された。

 深瀬の家族は3代にわたって「深瀬写真館」を経営。弟の了暉がその3代目を引き継いでいた。弟と妹の結婚を経て、大所帯に成長した家族と再会した深瀬は、家族全員を写真館のスタジオに集めて撮影。その写真は、たんなる家族写真の形式にとどまらず、腰巻き一つを身につけた半裸姿の妻を投入するという異様なものであった。

『家族』より
『家族』より

 その後も深瀬は、妻だけでなく様々な女性モデルを迎え入れては家族写真の撮影を継続。深瀬写真館での定点観測的な撮影によって、家族の年々の変化が確認され、一家族の記録写真として成立するいっぽうで、同作の随所には深瀬が仕込んだ虚構が入り混じる。深瀬は、同作について「3代目崩れである私の、パロディー」とコメント。家族写真に相応しくない要素を混入させることで、伝統的な家族写真の形式へのアイロニーとした。

 この撮影は一度中断されるが、父・助造の年老いた姿をきっかけに85年に再開。その2年後に迎えた父の葬儀の日にも撮影は行われ、89年の深瀬写真館の廃業を最後に、同作は完結となった。

『家族』より
『家族』より

 装い新たに生まれ変わった本著には、この一連の家族写真を撮影年順に収録。巻末には原版に収録された深瀬の自伝と、深瀬昌久アーカイブスの創設者兼ディレクターを務めるトモ・コスガによる本作解説が収録されている。

 同年10月には、本著の刊行記念展として、「家族」シリーズのヴィンテージプリントが、3日間限定でタカ・イシイギャラリー 東京 ビューイングルームにて特別展示された。現在、東京・恵比寿のPOSTでは、同展の巡回展が開催中だ(〜12月8日)。

編集部

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