写真を始めた28歳のときから、実母の旧姓名を作家名として名乗ってきた石内都。大正生まれの母・藤倉都は家族の反対を押し切って18歳で免許を取り、タクシーやバス、トラックなど様々な車を運転するドライバーだった。
石内は2018年、絵本画家・いわさきちひろとのコラボレーション展「ひろしま」を安曇野ちひろ美術館で開催。それをきっかけにちひろの人生を深く知り、2歳違いの母との重なりに気づいたという。
そんな石内の作品を通してふたりの女性に光を当てる展覧会「石内都展 都とちひろ ふたりの女の物語」が、ちひろ美術館・東京で開催される。会期は11月1日~2020年1月31日。
本展で石内は、ワンピースや帽子、手袋、口紅などちひろが身につけた遺品を撮影した新作シリーズ「1974.chihiro」を発表する。また、84歳で亡くなった母の遺品の写真と、死の直前の母の身体を撮影した写真から構成される石内の代表的なシリーズ「Mother’s」も展示。女性の自由が制限されていた時代、手に職を持って生きたそれぞれの「ひとりの女」としての一面を映し出す。
加えて会場では、約9550点ものちひろの遺作の中から、人物デッサンを中心に展示。淡くにじんだ水彩画で知られるちひろだが、折々のデッサンからは日々周囲の人を観察し、常に表現者であろうと手を動かし続けた姿を伺うことができる。
「『そうか、ちひろさんと母は同じ時代の空気を吸って生きたんだ』そう思ってから、私のなかの彼女の存在がよりいきいきとしました」と語る石内。本展では、その作品が紡ぐ「ふたりの女の物語」を静かになぞることができるだろう。