1970年代後半にイギリスの音楽家、ブライアン・イーノによって提唱されたアンビエント・ミュージック。ドローンと呼ばれるグラディエントな音階を持つ音楽の一形態として認識されて以来、イーノ自身がその「祖」と名指しするフランスの作曲家、エリック・サティによる『家具の音楽』(1920)から数えて100年後の現在も、アートフォームの世界で拡張を続けている。
その過程でアンビエントは形容詞でありながら名詞のように、そして「環境音楽」から「概念」へと少しずつ意味合いを変えながら、ジャンルや形式というよりもジャンルや形式の余剰領域として、その存在意義を確固たるものにしてきた。アンビエントに呼応するような表現は、音楽に限らず、同時代のアートにも多く見られる。
現在、東京・神楽坂のスプラウト・キュレーションで開催されている展覧会「AMB/媒質としてのアンビエント」では、そういったアンビエントな側面を持つ3名のアーティストの作品が並ぶ。
参加作家は、時間と空間のなかで断片化されたイメージの再構成を行うコンセプチュアルな写真作品を制作する大塚聡、メディウムとしての写真の可塑性やハンドスキャナによるエラー、ノイズを用いて、フォト・アートの新しい地平を探求する滝沢広、レーザーカッターや光学フィルムを使用するインダストリアル・ペインティングを手がけるノリ服部の3名。
いずれも複数のレイヤーや偶発的なデジタル・エラーなど、抑制の効いたノイズが時折画面に緊張感を与えるという点で、アンビエント・ミュージックと共通する要素を多く備える。また音楽的要素としてHair Stylistics a.k.a. 中原昌也が、本展のためのオリジナル音源を制作し、多次元的なインスタレーションを生み出す。