サイモン・フジワラの新作個展がTARO NASUで開催中。「The Antoinette Effect」という展覧会タイトルが指すものとは

日本人の父とイギリス人の母を持つ自身の出自や家族の歴史を出発点に、綿密なリサーチにもとづき、事実とフィクションを融合させた作品で知られるサイモン・フジワラ。今回、フジワラの新作個展「The Antoinette Effect」が、東京・六本木のTARO NASUで開催されている。会期は8月10日まで。

© Simon Fujiwara Courtesy of TARO NASU

 サイモン・フジワラは1982年イギリス生まれ。2005年にケンブリッジ大学建築専攻を卒業後、フランクフルト造形美術大学でサイモン・スターリングのもと美術を学んだ。

 演劇性の高いパフォーマンスやインスタレーション、彫刻、ビデオ、テキストといった多様なメディアによって作品を生み出すフジワラ。日本人の父とイギリス人の母を持つ自身の出自や家族の歴史を出発点に、綿密なリサーチにもとづき、事実とフィクションを融合させた作品で知られる。

 10年にはフリーズ・アートフェアのカルティエ・アワードを受賞し、12年にはイギリスのテート・セントアイヴスにて大規模な回顧展を開催。日本でも、16年に東京オペラシティで開催された個展「ホワイトデー」が話題となった。そのほかグッゲンハイム美術館やポンピドゥー・センターでのグループ展や、上海ビエンナーレやヴェネチア・ビエンナーレなどの国際展にも参加するなど、ベルリンを拠点に国際的な活動を行っている。

© Simon Fujiwara Courtesy of TARO NASU

 17年にオーストリアのブレンゲンツ美術館で開催された個展「Hope House」では、ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺の犠牲となったアンネ・フランクを軸とする内容の作品を発表。アムステルダムのアンネ・フランク博物館を訪れたフジワラは、アンネが家族とともに潜伏生活を強いられた家の紙製模型が、ミュージアム・ショップ内で手軽な土産物として販売され大ヒットしていることを知る。

 負の記憶を伝える施設が、ささやかな資金調達として展開する商業主義が、「悲劇」の重みを紙のように軽いものに変えてしまうという事実に喚起されたフジワラは、館内でアンネの家を再現するかたちで巨大インスタレーションを発表。同展は、ブレンゲンツ美術館の当時の過去最大の動員数を記録した。

 そんなフジワラの個展「The Antoinette Effect」が、東京・六本木のTARO NASUで開催中だ。本展は、「Hope House」展の続編ともいえる内容であり、激動する社会変化がより広い視野で収められている。展示はおもに立体作品で構成されており、すべて新作の発表となる。

 フジワラが今回主題とするのは、「弱肉強食」の世界における人間の「食欲」。本展を通じて、人間の活力や野望、好奇心が、欲望の翼に乗って世界の全てを咀嚼し消化することを試みている。

 「Antoinette」が意味するものとは何か?そしてフジワラはどのような物語を紡ぎ、どのようなかたちで世界へ拡張させていくのだろうか? ぜひ会場に足を運んでほしい。

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