美術館と図書館の複合施設である、群馬県の太田市美術館・図書館。そんな同館が、2017年より継続的に実施している本と美術の多様な関わりをテーマとした展覧会シリーズ「本と美術の展覧会」の第3弾「佐藤直樹展:紙面・壁画・循環」は、デザイナー/アートディレクターとして活動する佐藤直樹のデザインと絵画の仕事を、本展のために制作されたという新作も含めて展観するものだ。
佐藤は1961年生まれ。北海道教育大学卒業後、信州大学で教育社会学と言語社会学を学んだ。菊畑茂久馬絵画教場で美術を学んだ後も出入りをしていた美学校で目にしたアルバイト募集の貼り紙をきっかけに出版社へ入社。これを機にデザイナー/アートディレクターとしてのキャリアを開始した佐藤は、自身のこれまでの仕事を振り返り、「時代の流れの中ではじまった」と語る。
印刷技術の新しい時代の幕開けのなかで、佐藤はDTP技術を積極的に学び、自身が関わる雑誌やその他の紙媒体に意識を全投入。数々のエディトリアル・デザインを手がけることとなった。
2000年代より世界流通を前提としたグラフィック雑誌を自ら発刊し、さらにはその延⻑線上で、都内で空きビルを活用したアート、デザイン、建築の複合イベントも企画・実施した。
東日本大震災前の2010年代に入ると「それまで意識したことのなかったある場所の気配に身体が反応した」ことをきっかけに本格的な絵画制作をスタート。13年に描き始めた、植物を主とした木炭壁画《そこで生えている。》は、完成が想定されないまま、いまや幅160メートルを超え、さらに日々増殖を重ねている。
本展では、折々で対峙していた状況に「自身が全力を注いで行えることは何か」ということを考え、循環的に表現を変えてきた佐藤の足跡をたどることができる。