俺が黒人の絵しか描かないって言う人がたまにいるけど、そんなのはファックだぜ。
今年還暦になるアフリカン・アメリカンの作家ヘンリー・テイラーにとって2017年は激動の一年であった。歴史的に麻薬中毒者や路上生活者が多いロサンゼルスのスキッド・ロウにスタジオを持つテイラーは、去年ニューヨークのホイットニー・ビエンナーレ2017に出展し、同じくニューヨーク、ハイラインで初の公共作品を発表。そして『The New York Times Style Magazine』や『Art in America』の表紙を飾り、ボストンのICAに作品を購入され、クリスティーズ・ロンドンでは自身史上最高額で作品が落札された。現在東京のBlum&Poeでは、2017年6月にチューリッヒで開かれた展覧会以降にタンジール、ガーナ、アンティパロスなどの旅行先で制作した作品が展示されている。しかし近年の成功や過去の経歴について、ギャラリーの空間を指差しながら彼は言った。
「俺は10年間精神病院で働き、患者のケツを拭いてたんだ。ホームレスになり車中で寝泊まりしてたことだってある。だからこんなのはいつ消えてもおかしくないってことは十分にわかってるんだよ」。
世の無常を理解しているからこそ、自分には「誠実にオーセンティックな作品をつくることしかできない」とテイラーは言う。包容力に満ちている、と具象絵画を形容するのは少しおかしいかもしれないが、その独特な倫理観に触れずにテイラーの作品を語ることは道理に反することである。
彼のポートレート作品のモデルは、家族や日常的に会った人などプライベートの生活のなかに存在する無名の人物であったり、カール・ルイスのようなスポーツ選手やJay・Zのようなミュージシャンなどの有名人、また歴史的な事件の主人公を含むが、それらを彼は区別することなく描いている。その作風の背景には、文化相対性とも言うべき他者への寛大さや、自分の物差しで人を測らない心構えが見える。30代半ばまで修士号を取らず、ジャーナリズムを研究していたこともある彼の関心の対象は多岐にわたり、題材やモデルも多様である。テイラーは「俺が黒人の絵しか描かないって言う人がたまにいるけど、そんなのはファックだぜ」と、作品が安易に語られることを拒否し、今回の展示作品にも様々な人種が表象されている。