リー・キットは1978年香港生まれの美術家。97年の中国への返還を経て変貌していく故郷・香港で作家活動を開始し、現在は台北を拠点に、アジア、アメリカ、ヨーロッパ各地で滞在制作を行っている。
2013年にはヴェネチア・ビエンナーレの香港代表作家に選ばれ、香港館の屋内外にインスタレーションを展開。その作品は『ウォールストリートジャーナル』紙による「必見の展示ベスト5」にリストアップされるなど、リーが国際的に注目を集めるきっかけとなった。日本ではこれまで「The Voice Behind Me」展(資生堂ギャラリー、東京、2015)のほか、シュウゴアーツで3回の個展を開催している。
近年は、絵画やドローイング、プロジェクターの光や映像、さらには家具や日用品を配置し、淡い色調の絵画のように空間を構成。独特の歴史的背景を持ち、社会とともに揺れ動く街・香港を出自とするリーは、アートを通じて自身のあり方を問い、いまの世界と対峙しようとしている。また、展覧会を開催する場合、サイトスペシフィックな視線を織り込んだ作品を展開するのも特徴の一つである。
今回の個展会場となる原美術館は、もともと原家の私邸であり、第二次世界大戦を乗り越えGHQから返還され、美術館として創立40年を迎えようとしている。環境を強く意識するリーが、その空間をキャンバスに、どのような「絵画」を描くのか注目したい。