山下麻衣と小林直人は高校時代に出会い、2001年から「山下麻衣+小林直人」としてユニットによる活動を開始。東京藝術大学にて山下は博士課程、小林は修士課程をそれぞれ修了すると、その後はベルリンでのキュンストラーハウス・ベタニエン(2010)やニューヨークでのISCP(2011)などのレジデンスプログラムに参加。近年では、栃木の小山市立車屋美術館やドイツのクンストフェライン・ゲッティンゲンなどで個展を開催したほか、水戸芸術館現代美術ギャラリーの企画展「カフェ・イン・水戸 R」(2015)や2011年のヨコハマトリエンナーレなど、国内外で数多くのグループ展や芸術祭に出品してきた。
今回の展覧会タイトルでもある「自然観察」は、自然を人の対義語としてとらえるのではなく「人も宇宙も流れゆく自然の一部」という二人の見解が反映されたもの。
06年から10年にかけて、スイス、アルプスの山々を訪れて制作された彫刻と写真のシリーズ「How to make a mountain sculpture」をはじめ、これまでも自然をテーマに作品を展開してきた山下+小林。約7年ぶりのTSCAでの個展となる「自然観察」展は、石、海、山、犬、星、人を同等のモチーフとして解釈し、観察しながら制作した新作の映像作品4点が並ぶ。
《海の声を山に聞かせる》は、作家二人がとある山を登りながら海で録音した波の音をスピーカーで流し、木々や鳥、連なる山々に聞かせている映像が2つの画面に投影されるインスタレーション作品。海と山という自然風景として対極のもの同士を向き合わせることで生まれる妙な違和感は、シュルレアリスム的な映像を織りなす。
作家二人がうずくまって重なり合い動かない石を演じた《積み石》は、「モノ」と「生き物」との境界に疑問を投じる。その《積み石》のなかに登場する愛犬アンが海に向かって吠え続ける様子を映した《犬か海か》は、まるで波を生き物と思っているかのように戦いを挑むアンと、それに応戦するように激しく波を押し寄せる海との不思議な対立構造を切り取った作品だ。
さらに今回ギャラリーの小部屋では、星空をビデオで撮影し北極星が映る数ピクセルのみを拡大した《北極星》を展示。道標として人々を導いてきた星の光の映像で空間を満たそうと試みる。これら4点の新作が一堂に並ぶ本展は、山下+小林が確立してきたアニミズム的な世界観を色濃く表すものになるだろう。