土屋信子は1972年神奈川県生まれ。2003年にロイヤル・アカデミースクール・オブ・アーツを修了。2013年の瀬戸内国際芸術祭では、香川県の観音寺での関連企画に参加したほか、SCAI THE BATHHOUSEでは過去2回個展を開催している。海外では、第50回ヴェネチア・ビエンナーレ(2003)に参加。ロンドンでも個展を複数回開催するなど、国内外を問わず活躍している現代美術家だ。
「30 Ways To Go To The Moon」(月へ行く30の方法)と題された今回の個展は、月という身近な未知に到達するための、数々の秘策が展示空間に惜しげもなく放たれる。
アンテナ、プラスチックチューブ、吊り下がったフェルトやガラスのビーカー、謎の液体に濡れた大きな浴槽、そして卵を孵化させるような電子ワイヤーの接続。底知れない宇宙をテーマに独創的なストーリーを展開する土屋の作品の多くは、廃品である素材との偶然の出会いから始まり、SF小説の1ページのような詩的な精密さで演出されていく。
土屋が直感によって生み出すアイデアはまるで原始的な発明であり、時には危険な化学実験のように「いろいろな考え方」を調合して自在に変奏されていく。昨年、駒込倉庫で行われた個展では、メキシコのフードマーケットで行ったパフォーマンスの体験をもとに、「月に行けるゼリー」や、サボテンの毛のような「ふわふわ飴」のおもてなしを披露した。
作品の不可思議な素材感やタイトルにまで行き渡るユーモアは、圧倒的なフィクションの世界に誘う。