小説家で詩人の林芙美子(1903〜51)。自らの体験に基づいて書いた代表作の『放浪記』は長谷川時雨主宰の『女人芸術』に連載され、1930年に『新鋭文学叢書』の一冊として刊行、ベストセラーになる。以後、『風琴と魚の町』『晩菊』『浮雲』など、短い生涯で多くの名作を残した。
その人生は順風満帆なものではなく、貧困に苦しむ生活に耐え、また恋人との生活がうまくいかないこともあった。しかし、そんな波乱の人生のなかでも詩や童話を書き続け、自らの貧困生活へ立ち向かうように、生きる苦しみを吐露する作品を奔放な文体で表現。なかでも『放浪記』は当時としても破格のベストセラーとなり、現在でも映画やテレビドラマ、舞台などでも親しまれている。
そんな林芙美子の展覧会「林芙美子 貧乏コンチクショウ ―あなたのための人生処方箋―」が、東京・世田谷の世田谷文学館で開催される。同館で開催される背景として、芙美子が25年に世田谷区太子堂の二軒長屋で詩人・野村吉哉と暮らしていたことが挙げられる。このときが『放浪記』のモデルとなった時期。肺を患った野村は暴力的で、争いが絶えない生活を送っていた。しかしいっぽうで、芙美子は近隣に暮らす作家仲間たちに支えられていたときでもあった。
翌年には野村と別れ、新宿区中井に自宅を構える芙美子。住まいを転々として旅を愛した生涯の中で書かれた作品は、作者自身の前向きな人生観に裏打ちされており、波乱万丈の人生経験がその奥行きを形成している。
本展は芙美子が約50年の生涯のうちに綴ったことばを、現代へのメッセージ「幸福に生きるための処方箋」ととらえ、原稿・書簡・絵画など約250点の資料で紹介するという内容。芙美子の詩が書かれた持ち帰りができるカードも用意されるという。
現代でも親しまれている林芙美子の力強い作品の数々。多くの資料とともに、その文章を楽しみたい。