東西を超え、自分自身の言葉を探して。王衍成が語る、自由、身体、そして作品の「永生」

パリを拠点に国際的に活動する抽象画家、王衍成(ワン・ヤンチェン)。2024年の東京国立博物館・表慶館での個展を経て、今年11月には東京・銀座の和光本店で展覧会「Core ― Beyond Time WANG YAN CHENG」を開催する。東洋と西洋という枠組みを超え、王はいかにして「自分自身の言葉」を探してきたのか。自由、身体、普遍性、そして作品の「永生」について、文化研究者の山本浩貴が聞いた。

聞き手=山本浩貴 構成=編集部

王衍成、和光本店にて 撮影:稲葉真

「自分の言葉」を探す──先人、画布、そして自由

──中国からフランスへ渡り、国際的に活動する王さんの作品は、同じく中国出身でパリを拠点にしたザオ・ウーキーやチュー・テ・チュンを想起させます。西洋の抽象絵画と中国絵画の伝統、東洋思想との接続など共通する点もありますが、彼らから受けた影響と、ご自身の表現との違いをどのように考えていますか?

王衍成 ザオ・ウーキーやチュー・テ・チュン、そしてピカソをはじめとする偉大な先人たちの存在は、私にとって大きなプレッシャーでした。彼らはすでに、創造という意味でひとつの「天井」とも言えるほどの高みに到達していたからです。その後に自分は何をつくることができるのか。それは考え続けなければならない問題でした。実際、私の作品もザオ・ウーキーやチュー・テ・チュンと比較されることがあります。

インタビューに答える王衍成 撮影:稲葉真

 しかし重要なのは、彼らの表現を模倣したり、確立された様式を繰り返したりすることではありません。芸術家は、自分自身の言葉を見つけなければならない。それは誰かのスタイルを借りるのではなく、作品と向き合うなかで得た、もっとも真実に迫る感覚から生まれるものだと思っています。実際私は、ひとつのシリーズで同じ要素を用いながら30点、40点と描くことがありますが、それは同じ作品の複製ではありません。反復のなかで、そのつど異なる運動が現れてくるのです。

 その意味で、私の絵画では、作者の意志だけで画面を支配しないことも重要です。私はキャンバスそのものもひとつの主体だと考えています。私はキャンバスを見るけれど、キャンバスもまた私を見る。触れると同時に、こちらも触れられている。見る/見られる、触れる/触れられるという相互作用が生まれる。私はこれを「双主体性」と考えています。

 画面をあらかじめ決めた意味や形式で縛るのではなく、作品との関係のなかで自分の感覚がどのように現れるのかを見る。それが、私にとって自分自身の言葉を探すということなのだと思います。

王衍成《Untitled》(2026)キャンバスに油彩 180×150 cm

──1989年にフランスへ渡って以降、長くパリを拠点に制作を続けています。西洋での暮らしや制作環境が、ご自身の芸術観に与えたもっとも大きな影響はなんでしょうか?

王 フランスで制作を続けられたことは、私にとって非常に幸運でした。偉大な先人たちがいるなかで仕事をすることには大きなプレッシャーがありますが、同時にフランスには、芸術家が自由な状態で、自分自身と誠実に向き合いながら制作を続けられる土壌がありました。

 私にとって自由とは、たんに好きなことをなんでもするという意味ではありません。自分や対象にあらかじめ概念を与え、それによって縛ってしまわないことです。

 例えば山を見るとき、私たちは必ずしも山そのものを見ているわけではありません。炭鉱で働く人なら、そこにどのような資源が眠っているのかを見るかもしれない。つまり、自然を見る前に、自分が持つ目的や概念を通して対象を見てしまう。私は、美とは本来、そうした概念によって固定される以前の、自然に現れている状態のなかにあると思っています。

 絵画も同じです。キャンバスを縛ってはいけないし、画家自身も縛ってはいけない。最初から何を描くべきか、何を意味するべきかを決めてしまえば、画面が自然に現れてくる可能性を失ってしまいます。

王衍成《Untitled》(2026)ミクストメディア 56×76 cm

 そのことを強く考えるきっかけのひとつになったのが、ミケランジェロの晩年の彫刻でした。彼は大理石を自分の意志だけで支配するのではなく、石に触れ、その自然な状態と、自分がそこに見出そうとするかたちとのあいだに交換関係をつくっていたと聞きました。作者が素材を一方的に支配するのではなく、素材と対話しながらかたちを引き出していく。この考え方は、私にとってとても重要です。

 自然や素材、そして宇宙との関係も同じだと思います。自分がすべてをコントロールするのではなく、自分を解放し、相手から返ってくるものを受け取る。フランスで得た「自由」とは、そうしてより誠実な状態で世界と向き合うことなのだと思います。

編集部

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