東京・銀座4丁目のランドマークである和光本店。渡辺仁建築工務所によるネオ・ルネサンス様式の建築で広く親しまれているこの建物の地階が、杉本博司・榊田倫之の新素材研究所によって新たに生まれ変わった(オープン日は7月20日)。
地階売場は、和光創業者・服部金太郎の「常に時代の一歩先を行く」という想いを受け、「新商品売場」として新しいライフスタイルや、価値観を提案してきた。今回、和光は半年近くこの売場を閉めて、リニューアルを実施。新たに「時の舞台」をコンセプトに掲げ、伝統と革新が共鳴する、文化の発信地、交流の場となることを目指している。
新素材研究所によるデザインコンセプトは「舞台と回廊」。フロアの中央は和光のルーツである時計に見立てたスペースとなっており、長針と短針に見立てられた巨大な2枚の霧島杉が、自在に形を変える。この「舞台」の周囲を「回廊」がぐるりと囲み、空間を回遊するように様々なクリエイターが手がけたプロダクトと出会うことができる。
杉本は、「和光は銀座の一等地。その象徴的な場所を設計できて光栄だ」としつつ、このリニューアルについてこう語る。「和光を『和の光』としてとらえようと考えた。最近は和が世界で注目されており、外資系ホテルも和風を取り入れているが、侘び寂びという単純なものではない。いまの時代に、何が本当の和なのかを考え直し、ソリッド、無垢なものを目指した」。
この言葉を象徴するかのように、店内には杉本が近年手がける「Brush Impression」シリーズ(暗室の中で現像液や定着液に浸した筆を使い、印画紙に書を揮ったもの)による「和」と「光」が展示されている。「和」がかかる床の間には東大寺の鎌倉時代の古材が用いられ、畳の上には末法思想が流行した平安時代の経筒が置かれた。それらは長い時間を閉じ込めたタイムカプセルのようでもあり、コンセプト「時の舞台」ともリンクする。
空間内には様々な杉材、敷石は京都の町家で使われていた敷石、柱は沖縄産のトラバーチンを使った柱、化石を図案化した唐紙の壁紙など、随所に新素材研究所のこだわりが散りばめられており、これらをじっくり見るだけでも大いに目を楽しませてくれるだろう。
なお、この新素材研究所によるリニューアルに合わせ、1階中央ウインドウは、美術家であり自然布の蒐集家・研究家として知られる吉田慎一郎により古代麻布のインスタレーションが展示(7月18日〜8月21日)。新たな「時の舞台」の幕開けを祝う。