渡邉香織(foxco)と考えるフリーランスに必要なこと。フリーランス協会が提供する表現者のためのサービスを知る

国内最大級のフリーランス当事者ネットワーク「フリーランス協会」。フリーランスの活動を支えるサービスを多数提供する同協会は、アーティストやデザイナーにとっても強い味方となる。自身もフリーランスとして活動した経験を持つアーティスト/イラストレーターのfoxcoとして活動する渡邉香織に、同協会のサービスを見ながらフリーランスとして生きる表現者の課題や喜びを聞いた。

聞き手=フリーランス協会 構成=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

渡邉香織(foxco)

 約12万人のフリーランス事業者が会員・フォロワーとなっている、国内最大級のフリーランス当事者ネットワーク、非営利支援団体一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下、フリーランス協会)。

 フリーランス協会は、無料メールアドレス登録をするだけで、フリーランスのための実用的な情報を得られる。ほかにも、Udemyが無料で学び放題となる学習プラットフォーム「IBM SkillsBuild」や、DELLのPCデバイスや会計サービスなどの多彩な割引優待、自己PRデータベースなど豊富な特典が利用できることも特徴だ。さらに、年会費1万円を払うことで最大10億円の賠償責任保険、報酬トラブルや知財トラブルに自己負担費用無しで対応できる弁護士費用保険に加入でき、収入・ケガ・介護保険、キャリアコンサルタントとの面談の補助や、割引価格でウェビナーまで使えるZoomの特別ライセンスなども利用できる。

 デザイン/アートを中心とした表現分野ではフリーランスとして活動する人材が多いが、実際にフリーランスとして活動するうえで、どのような障壁があり、どのような心構えが求められるのか。同協会のサービスの紹介とともに、アーティスト/イラストレーターのfoxcoとして活動する渡邉香織にインタビューした。

foxco「Notre Jardin」(2022、5450THE GALLERY、東京)

──渡邉さんがフリーランスとしてアーティスト/イラストレーターとして活動しようと思ったきっかけはなんでしょうか。

渡邉香織 大学時代はプロダクトデザインを学んでいましたが、周囲はどちらかというとフリーランスとして身を立てるというより、広告代理店をはじめとした企業に務めるというキャリアプランを考えている人が多かったです。でも、私は当時から自分の名前でものをつくる仕事がしたかったんです。

 卒業後は専業のイラストレーターへの思いは持ちつつも、IT企業で働きながら、フリーランスとして「foxco」の名前でイラストを描き始めました。これが私のイラストレーターとしてのキャリアの始まりです。周囲にフリーランスが少なかったこともあり、当時は会社員としての賃金の安定を担保に、好きなことを並行させていましたが、フリーランス協会の存在を知っていたら、もっと早く独立をしていたのかもしれません。

 転換点となったのは雑誌『JJ』(小学館)のコラム連載「働く女子の現場から」のイラストを毎回担当できるようになったところでしょうか。定期的にイラストが雑誌に載ることで私のことを知ってもらい、そこから仕事が増えました。定期的に仕事があるという安心感も、フリーランスになる後ろ盾として大きかったです。

──まさに理想的なキャリアシフトですね。foxcoさんが独立してフリラーンスとしてお仕事をしていくなかで、具体的に困ったことや、障害になったことはありましたか。

渡邉 初期は雑誌のイラストの受注が多かったので、あらかじめ媒体の基準で金額が決められていいることが多かったのですが、仕事の幅が広がってくると、こちらから仕事を値付けして提案しなければいけない場面が増えました。クライアントから値段を聞かれても、当時は相場がいくらなのかわからないので、インターネットで調べて探りながら提案をしていました。

 周囲にフリーランスの知人がおらず、イラストレーターの仕事もまだ始めたばかりだったので、キャリアに合わせた仕事の単価の平均値を知りたいと思ったことは多かったです。周囲に同じ立場の人や、メンターとして相談できる人がいれば本当に心強かったと思うので、協会という組織に所属して相談できる環境があれば心強いですよね。

foxco「The Longest Night」(スパイラルガーデン)メインイメージ

──フリーランス協会ではフリーランスのための交流会「スナック曲がり角」を全国で実施したり、オンラインセミナーとして副業を始めた方やこれから始める方に向けた、値付けや税制、仕事の取り方などを教える講座も多数実施しています。いずれも好評で、フリーランスだからこその悩みや課題を共有し解決の糸口を探る契機になっています。現場を経験していないと解決のためのアドバイスに至らないことも多々ありますよね。

渡邉 例えばイラストを納品したら「素敵なイラストだったから」と、当初口頭で話していた範囲を大きく超える規模でイラストが使われたことがありました。クライアントとしては露出が増えるほどわたしの宣伝にもなって良いのでは、と思ってのことだったのでしょうが、本来、使用範囲が変わるのであれば、掲載箇所を想定してそれぞれの場所に合ったイラストを描きたいですし価格も変えたいですよね。あるいは、クレジットの記載がなかったりして、昔は泣き寝入りすることも多かったです。

 契約書をきちんとつくっておけば、納品するイラストの使用範囲についても定義できたかもしれませんが、当時はその意識も知識も足りていなくて、痛い目を見ました。契約書についてはいまでも悩むことがありますが、そういったことを相談できる場として協会があると嬉しいですよね。

──2024年11月に「フリーランス新法」が施行され、取引開始時の取引条件明示が義務化されました。メールやチャット、SNSメッセージで箇条書きで条件を示すかたちでも良いですが、フリーランスのための契約書のひな型があると安心ですよね。協会ではそういった声を受けて、著作権の譲渡をはじめとした利用要件や納期といった契約条件を穴埋めチェックで確認し、さらに質問に答えながら自分に最適な契約書をつくることができる「契約書メーカー」も用意しました。。おかげさまで大変好評で、契約書を作成しようとするフリーランスのみなさんの助けになれればと思っています。

渡邉 フリーランスになったばかりの当時、こういったツールがあると本当に助かったと思います。自分が仕事において、守るべきルール、譲らないラインというのを決めておくことも契約においては大事ですよね。

 イラストレーターとして自分の作品は子供のような存在なので、ちゃんとコントロールしたいです。

 あと、複数のクライアントと仕事をするとき、私のイラストを使った同じアイテムが、異なるクライアントから同じ時期に展開されないように気を遣ったり。自分のつくったものを適正なかたちで人々に届けるためには色々なことを考えなければいけませんよね。

契約書メーカー

──フリーランスとして気をつけるべき点についての話が多くなりましたが、いっぽうでクライアントさんとの仕事だからこそ得られる喜びというものもありますよね。

渡邉 クライアントワークとは、額縁に合う絵を、ブランドのヒストリーやカルチャーについて考えながらつくるような喜びがあります。また、私ひとりでは届けられないような多くの人々に、商品とともに自分のイラストを届けることができますよね。そういった、責任感と一体になった仕事だからこその喜びがクライアントワークにはあります。今年最初のクライアントワークは、ラルフローレンさんのバレンタインパッケージです。全国の百貨店やラルフズコーヒーで展開されますが、こうして全国各地にイラストが届けられることも、喜びのひとつです。


25年1月17日より販売が開始されるRalph’s coffee Valentine chocolateのパッケージイラスト

──なにより、フリーランスは仕事の方法である以上に生き方でもありますよね。

渡邉 本当にそう思います。 私はむしろオンとオフをスイッチするよりも、ずっと仕事のことを考えていたいタイプなので、フリーランスが向いているのだと思います。仕事をきっかけに、外に出て新しいインプットをすることもできますし、そういう生活がとても気に入っています。

──最後に、foxcoさんの今後の活動の目標を教えて下さい。

渡邉 現在はロンドンを拠点にしているので、日本だけでなくこちらでの仕事を増やしていきたいと思っています。フリーランスとして、ここロンドンでまた新たに調べることや、学ぶことが多いですが、楽しみでもあります。

 また、直近では2025年1月8日から大規模な個展「The Longest Night」を、表参道のスパイラルガーデンで開催するので、その準備がまずは第一です。ロンドンでの「いちばん長い夜」をテーマに、私のシグネイチャーキャラクター「おばけいぬ」を使った大型のインスタレーションなど、初めての試みも多いので、アーティストとしての新たなキャリアに踏み出す機会になればと、わくわくしています。ぜひ、遊びに来てください。

foxco「The Longest Night」(スパイラルガーデン)に出展するインスタレーションのイメージ

編集部

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