【ギャラリストの新世代】
Gallery 38 堀内晶子

2016年のオープンから土と火に真摯に向き合いながら陶の作品を手がける植松永次や、様々な動物を表情豊かに造形するステファニー・クエールらによる現代美術作品を紹介してきたGallery 38。ギャラリーを立ち上げた経緯や今後の展望について、代表の堀内晶子に話を聞いた。

文=野路千晶

大通りに面した日当たりの良いギャラリー。空間デザインは中村圭佑が主催する「DAIKEI MILLS」によるもの。 Photo by Chika Takami

東京とロンドンを拠点に

古美術商である父の存在

 2016年9月、東京の神宮前に現代美術のギャラリー「Gallery 38」はオープンした。「いまから40年ほど前に、ロンドンのボンド・ストリート38番地で父が営んでいた古美術のギャラリー名が“Gallery 38”。せっかくだからその名前を引き継ごうと思いました」。そう話すのは、ギャラリーの代表を務める堀内晶子だ。

Gallery 38 外観

 幼い頃から、古美術商の父が集めた東西の美術作品に囲まれていた堀内にとって、美術が身近にあることは自然なことだった。しかしそれらから距離を置くかのように、大学では体育会系の部活に専念。卒業後は2年間の一般企業勤務を経て、ロンドンへと渡った。

 「両親が再度ロンドンへと拠点を移すことになり、これはいいタイミングかもしれない、と。でも、当時の私は英語が苦手で海外にほとんど興味もなく、なぜ留学を決めたのか、いまだに不思議な気分です(笑)」。

2人の作家との出会い

 イギリス、イタリアから帰国した堀内は、ファッションデザイナーの弟のブランド立ち上げに関わり、共同で運営。その後2011年から3年間は、彫刻家の籔内佐斗司のマネジメントを行う会社で、保存修復の仕事や、籔内のオフィシャルギャラリーでの業務に従事した。「当時の私は自分がギャラリーを立ち上げるとはまったく思っていなかった。でも、その時期のおかげでギャラリー運営に必要な様々なことを知ることができました」。そう振り返る堀内がギャラリーを設立する転機となったのは、動物をモチーフとした立体作品を手がけるステファニー・クエールとの出会いだった。「ロンドンのセラミックアートフェアに訪れた際、偶然ステファニーの作品を目にして、その場で購入。日本でもぜひ作品を紹介できたらと思うようになりました」。

 東京都内のギャラリー、百貨店のポップアップでの作品展示、弟のファッションブランドとのコラボレーションなどを行うなかで、クエールの知名度は拡大。ギャラリースペースを持つことへの意識が徐々に高まっていった。「ステファニー、そしてオープニング展で個展を行なった植松永次さんは、家族全員がその作品の大ファン。彼らの存在があったからこそ、ギャラリーを始める第一歩を踏み出せたと思っています」。

取材時に開催していた「コレクション展:青/Blue」では、植松永次、瑛九、岡﨑乾二郎、菅木志雄らの作品が並ぶ

縁とタイミングを大切に

 Gallery 38が目下の課題として掲げていることは、新しい作家の発掘だ。「ステファニーも植松さんも、関係性を少しずつ築いてきました。交流を重ねることで、作品を取り囲むより多くの要素が見えてくるので楽しい。ペースは遅いですが、作品選びは慎重に行っています」。また、こうして選んだ作品を、今後は国外でも発表したいと考えているという。「これまでロンドンで培ってきた縁をベースとして、日本の作家をロンドンやその他の都市でも紹介してみたいです」。

 かつてのクエールのように、自分が「好き」だと思う作品がしだいに受け入れられることへの喜びが、それら動機の根底にはある。「ギャラリーは9月で2年目を迎えますが、これからも出会いとタイミングを大切に、マイペースに運営していけたらと思っています」。

もっと聞きたい!

Q. ギャラリー一押しの作家は?

 植松永次さんです。絵画や版画制作を経て陶による作品にたどり着いた植松さんの作品は、こちらに何かを訴えかけてくるような静かで強い佇まいが魅力です。本当にいい作品や「もの」はずっと見ていられるということを、植松さんの作品を通して実感しています。

植松永次 青空 2016

Q. お気に入りの一品は?

 京橋のギャラリーで購入した、円空の木っ端仏です。円空の作品は真贋を判別するのも難しいとされているそうですが、そんなことは気にならないくらいに表情に心を掴まれてしまいました。ギャラリーでの作品との出会い、買う楽しさはみなさんにも知ってほしいです。

 (『美術手帖』2017年10月号「ART NAVI」より)

編集部

Exhibition Ranking