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「アートフェアのモデルを根本から考え直したい」。PAVILION共同創設者ウィレム・モールズワースに聞く

従来のブース型アートフェアとは異なる形式を掲げ、台北、香港に続いてソウルで開催された「PAVILION」。Kumsung Cultural Space(KCS)を会場に、ジムズ・ラムのキュレーションのもと世界各国から17のギャラリーや非営利スペースが参加。個別のブースを設けず作品を展開した。このモデルは、既存のアートフェアに対するどのような問題意識から生まれたのか。共同創設者のウィレム・モールズワースに、アートフェアをめぐるコストと市場、作品の収集、そしてアジアのアート市場について話を聞いた。

聞き手・文=大原愛美(編集部)

「PAVILION SEOUL」の展示風景 Courtesy of PAVILION Seoul.

 ウィレム・モールズワースとイザベル・チャンによって2025年に設立されたアートフェア・「PAVILION」。2026年1月の台北、3月の香港に続き、9月にはソウルで開催された。「PAVILION SEOUL」では、Kumsung Cultural Space(KCS)の3棟を舞台に、17のギャラリーや非営利スペースが参加。一般的なアートフェアのようにギャラリーごとのブースを設けるのではなく、複数の出展者の作品をひと続きの空間に配置し、パフォーマンスも組み込んだ。

「PAVILION SEOUL」の展示風景 Courtesy of PAVILION Seoul.

 こうした形式は、既存のアートフェアに対するどのような問題意識から生まれたのか。共同創設者であり、香港のギャラリーPHD Groupを運営するウィレム・モールズワースに、PAVILIONを立ち上げた背景から、作品を売買し収集すること、変化するアジアのアート市場まで話を聞いた。

アートフェアに付随する高い参加コスト

──「PAVILION」のコンセプトがとても興味深いと思いました。アートフェアとされていますが、ここでのコンセプトは一般的なものとはかなり異なります。

ウィレム・モールズワース(以下WM) 若いギャラリーを運営する者として、私はずっとアートフェアへの参加を切望してきました。アート・バーゼル香港にも参加していますし、アートフェアがギャラリーに大きな活力をもたらす重要な存在であることは理解しています。しかし同時に、非常に厳しい面もあります。出展には莫大な費用がかかり、それが次第にギャラリーそのものを変えてしまう。一定の価格帯で売れるとわかっている作品を展示しなければならず、様々な妥協をするようになる。「私たちは何をしているんだろう」「私はなぜこれをやっているんだろう」と考えるようになるのです。

「PAVILION SEOUL」の展示風景 Courtesy of PAVILION Seoul.

 私は、自分たちのプログラムをほかの都市へ持ち出して作品を紹介したいと思っていました。しかし、大規模なアートフェアでそれを実現するだけの資金はありませんでした。そういったアートフェアに参加するための必要資金の額はあまりに常軌を逸していると感じ、「自分たちで機会をつくろう」と考えたのです。香港ではいくつかのオルタナティブなアートフェアを企画し、「ほかの都市でも一緒にやってくれる人を見つけられれば、実現できるかもしれない」と思いました。

 実際にいまでは、それができるようになりました。イザベルと私に何ができるかを理解し、「やってみよう」と言ってくれるパートナーにも恵まれました。出展料が安いぶん、出展者がより新しい作品や若手の作品、実験的な作品を持ってくることができるようになってほしい。それによって、より健全なエコシステムが生まれることを願っています。

「PAVILION SEOUL」の展示風景 Courtesy of PAVILION Seoul.

 人々は、アート市場には問題があると言います。参加するのにお金がかかりすぎるからです。大金を使うなら、大金を稼ぐ必要がある。そのためには価格を上げ、特定の種類のものを見せなければならない。その結果、バブルが生じます。とても単純な話です。

 私はアートフェアをつくりたい。しかし、若いギャラリーを運営する自分が見たいと思えるものにするため、可能な限りそのあり方を変えたい。パフォーマンスがあり、時間をかけて作品に向き合える場があってほしいと思っています。

「30秒」の売買から、作品について話す時間へ

──いまのアートフェアについて、参加コストのほかに問題視していることはありますか。またそのうえでPAVILIONのあり方をどのように設計しましたか。

「PAVILION SEOUL」の展示風景 Courtesy of PAVILION Seoul.

WM アートフェアでよく見かけるもののひとつが、30秒で終わる会話です。誰かから短い売り文句を聞き、その場で作品を買うか、買わないかを決める。短い売り文句だけで作品を買ったのなら、その作品を売ることにもあまり抵抗はないでしょう。「買うときに考えたのはたったの30秒だし、売ってしまおう」となるわけです。

 それに対して、作品について長い時間をかけて話し、本当に理解し、考えるようになれば、その作品を手放さないかもしれません。あるいは売るとしても、よほど高い金額でなければ売らないでしょう。それこそが価値であり、作品を愛しているからこそ生じるものです。そうすることで、健全な市場がつくられます。

 私にとって重要なのは、モデルを根本から考え直すことです。何を変えられるのか。どうすれば費用を抑えられるのか。どうすれば、より長い対話を生み出せるのか。どうすれば、新しい作品や若い世代の作品を紹介できるのか。その多くはお金の問題に行き着くため、私は可能な限り費用を抑えようとしています。

──様々な角度から新たなアートフェアのモデルを組み直しているのですね。

WM ギャラリーから受け取る料金は、運営に必要な最低限の額にしています。少ない額でも多くの結果につながるよう努め、建築家たちとも仕事をしています。

「PAVILION SEOUL」の展示風景 Courtesy of PAVILION Seoul.

 また、気候変動についても気にかけています。こうした話をするのはあまり好きではありません。多くの人が退屈そうに聞き流してしまうことを知っているからです。それでも、私は資材を無駄にしたくありません。すべて再利用しています。会場に設置したベンチでさえ、すでに海で使われていたブイと合板とストラップだけでつくっています。このブイは本来なら埋立地へ送られていた物です。

──そこにも創造性があるということですか。

WM まったくその通りです。創造的であることが重要なのです。私たちはアート業界にいるんです。創造的になりましょう。建築を再考し、形式を再考し、古い空間を活用する。自分たちが表明している価値観を、自ら体現しましょう。

 創造的になりましょう。建築を再考し、形式を再考し、古い空間を活用する。自分たちが表明している価値観を、自ら体現しましょう。結局のところ、そういうことなのです。

編集部