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バリー・マッギーが目指す世界とは? バリー・マッギー×和多利浩一対談

多岐にわたる素材・技法を取り入れ、アメリカ・サンフランシスコを拠点に活動するアーティスト、バリー・マッギー。その最新の個展「ポテト・サック・ボディ」が、3月28日までペロタン東京で行われている。2007年にワタリウム美術館で日本初個展を開催して以来、バリーの制作姿勢にはどのような変化が起きたのか? 来日したバリーと、親交があるワタリウム美術館代表・和多利浩一が語り合う。

撮影=MAYICHENG

左から和多利浩一、バリー・マッギー ©︎ Barry McGee

アートで社会に還元を

和多利浩一 この展覧会をやると決めたのはいつなの?

バリー・マッギー 6ヶ月くらい前かな。(Reborn-Art Festivalの)網地島会場で展示したあと、ギャラリーを視察して展覧会を開こうと考えていたんだけど、香港で先にやることになったんだ。

和多利 香港と日本で展覧会の内容は変えたのかな?

バリー 内容は全部違うんだ。今回の作品は東京のためのもので、香港の展示をさらに展開した感じ。例えば香港のギャラリーには柱がひとつあって、それを写真で埋めつくしてみたら、なんだかとても良くてね。だから東京ではさらに多くの色々なかたちで柱を建ててもらってその実験を続けたんだよ。

和多利 もちろんスペースによって展覧会を考えるとは思うけど、国やエリアによって描くものや飾るものが変わっていくってことはあるよね。

バリー そうだね。作品のなかに特定の誰かに向けた、隠れたメッセージのようなものを加えたり。

和多利 そういうチャレンジがあるのはいいね。バリーの展覧会に行くと毎回新たな発見があって楽しいよ。

和多利浩一

バリー 本当に? じつはこれが悪夢なんだよ(笑)。アーティストにとってはきついことだからね。

和多利 本人にとっては悪夢かもしれないけど、リピートではなくつねに新しいものがあるというのはとても大事なことだと思うよ。だからなのか、バリーはつねに新しい人を動員したり、慕われたりしている感じがするね。とくに僕がびっくりしたのは、学生たちとディスカッションしている映像がたくさん出ていること。車座になってしゃべるのは羨ましいな。

バリー すごく楽しいよ。そうやって社会に還元することが大事なんだ。1998年だったかな。東京で初めて和多利さんにそういう若者との議論の場をもらったよね。

バリー・マッギー

和多利 あれが発展していって、よりコアに、ギュっとなっているのがとてもいい。今回の映像ではアメリカ人同士でしゃべっているから、メッセージがすごくダイレクトに伝わってくる。日本だとどうしても躊躇が入ってしまうから。

バリー 重要なのは愛と情熱。和多利さんともワタリウムで2回ほど素敵なレクチャーをさせてもらったけど、みんな床に座ってとてもリラックスしていたよね。

和多利 そうだね。なるべく若い人たちに来てほしいと思っていたから、もうぎゅうぎゅうで(笑)。

バリー でもみんななぜか男性が多いんだよ。ファン層をもっと多様化して、バランスを整えていかなければいけないなと。男性中心的な状況は、僕にとっては居心地が悪くてね。僕が一歩下がるような感じで、女性アーティストに陽の光が当たるスペースをつくれたらいいなって。それが夢かな。

 僕の作品は、とくに男性的なのかな? 僕はそういうつもりじゃないんだけどね……でもどうしても男性が集まる傾向があるんだよね。

展示風景 ©︎ Barry McGee

和多利 すると思うよ。男の子の若い世代には遊び心があるから。

バリー 本当に? 意識していないんだけどな。40年も前のストリートカルチャー的なものから少しは変化しているかなって思ってたんだけど。

和多利 いや、あまりしていないのかも(笑)。

バリー 成熟したと思ってたのに.....。

和多利 いやいやそうじゃなくて、バリーを囲む状況──つまり日本の体質が変わっていないっていうこと。大企業なんかはフレームが強すぎて、個人がどうやってそこの隙間をぬっていくかがいまは問題で。そういう隙間はホッとするでしょ。その隙間がバリーっぽいんだよ。

バリー そういうところに働きかけるような仕事ができればいいな。

展示風景 Photo by Maiko Miyagawa ©︎ Barry McGee; Courtesy of the artist, Perrotin and Ratio 3, San Francisco

いかに有名になっても最初の姿勢は変わらない

和多利 バリーが99年にワタリウムでレクチャーしてくれたとき、僕は衝撃を受けたんだ。いままで僕がやってきたことは”ぬるいな”って。バリーはずっとエッジを走っているし、その連中と作品をつくっているっていうのは、僕のなかでひとつのアベレージになったと思う。

バリー 和多利さんとご家族は、東京ですごく素敵な活動をしてるよね。

和多利 私たち家族は83年にキース・ヘリングを呼んで、日本で最初のストリート系の展覧会をやった。その反響はとっても良かったんだ。本当ならキース・ヘリングのあとにジャン=ミシェル・バスキアも予定していたんだけど、「リアクションが大きすぎて、続けてこれをやったらちょっと大変だ」と思ってストップしたんだ。キースのような大変な展覧会の第二弾やるのはやめようと、家族会議を開いて引っ込めた(笑)。

 その後、25年経ってバリーとちきんと展覧会をやるとき、「僕らはちょっと引いた分ぬるくなっちゃったなあ」と思ったのが、正直なところ。

展示風景 ©︎ Barry McGee

 キース・ヘリングと最初に会ったあと、彼はずっとブレイクして世界中を飛び回ってた。バリーも同じような状況にあったよね。99年に打ち合わせをしたけど、そのとき日本では誰もバリーのことを知らなくて、ワタリウムと村上隆とかごく少人数だけが騒いでた。その後、バリーはヴェネチア・ビエンナーレで大規模なインスタレーションを展示してブレイクしていった。

 それで10年後に「何かやろう」と言ったら全然メンタルが変わってない。いろんな展示をアートワールドでやっていても、バリーのスピリットがまったく変わっていないことがとても嬉しかったんだ。キース・ヘリングのジェネレーションは、フェイムとマネーのほう行ってしまったけど、バリーは全然違う。最初の姿勢みたいなのは変わっていない。ここが大好きなんだよね。

 どんなに有名になっても、バリーはいつもバリーらしく、若い連中のために作品をつくり続けてる。それはとっても素晴らしいことだよ。

バリー 和多利さんだって、まだ有名になっていない作家たちに表現の場やプラットフォームを与えて、すごく貢献してるじゃないですか。

和多利 僕はバリーの展覧会以降、それをなるべく意識しているんだ。

和多利浩一

いまのアート界はコマースに過ぎない

和多利 ちなみに最初に来日したのはいつだっけ?

バリー 1998年かな。

和多利 バリーから見ると、日本はこの20年でどんなふうに変わった?

バリー とくに若い世代で変化が起こっている感じがする。テクノロジーの発達もあって、より外部の世界とつながり、情報の伝達スピードが速い。

和多利 それは世界中そうでしょう。

バリー 例えばDIEGOはもっともリアルなアーティスト。彼は、アートコレクティブ(SIDE CORE)にも入ってるよね? ルールに従わずに自分でお金を稼ぐというわけでもない。とても自由な感じがする。

和多利 DIEGOにとっては、バリーに認められたということはすごく嬉しいわけよ。それが糧になっているから。

バリー 難しいけど、売上とは関係ない展覧会をやるのは良いことじゃないかな。いまのアート界はコマースに取り憑かれてる。大量生産の方向に向かってるよ。

和多利 ペロタンのようなコマーシャルギャラリーで、あまりコマーシャルの匂いがしない展覧会をやるのがいいね。僕としてはそれが一番おもしろい。

バリー その境界線を取り除いていくというのは、どの分野においても素晴らしいことだと思うよ。

バリー・マッギー

アートに関わる幸せ

和多利 東京では今年オリンピックがある。オリンピックに対してアゲインストの人もたくさんいるから、今年はアーティストや様々な人に何を提示するかがとても大事な年だと思ってるんだ。ワタリウムはそれを自分なりに、次のジェネレーションに見せていかないといけないなと。ぜひ協力してほしい。

バリー もちろん!

和多利 最後に、今後の活動について教えてくれる?

バリー 3月にはブラジルでプロジェクトがあるんだ。あとは小さいプロジェクトが様々なところで。いつもギリギリで決まって動くタイプ(笑)。

和多利 この数の作品が常時出せるのは、よほど普段描いているんだなと思うよ。

展示風景 Photo by Maiko Miyagawa ©︎ Barry McGee; Courtesy of the artist, Perrotin and Ratio 3, San Francisco

バリー 描くのが好きだから、仕事だとは思ってないんだ。

和多利 そうだね。苦しんで作品を生み出していない感じが自然に出てる。

バリー 作品をつくれて幸せだよ。自分は社会のメインストリームに馴染むのは難しいっていう感覚があった。だからアート業界やアートのコミュニティでは友達もつくりやすいし、自分の属する場所だという感覚がある。

 本当にすばらしいコミュニティだし、コントロールできないエネルギーがある。アートに関わる人生を送れて、とても幸せなんだ。

左から和多利浩一、バリー・マッギー ©︎ Barry McGee

編集部

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