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INTERVIEW - 2018.12.31

中国の美術館はどうあるべきか? 南京四方当代美術館館長、陸尋(ル・シュン)に聞く

アメリカの建築家、スティーヴン・ホールが設計した中国を代表する私設美術館のひとつ、南京四方当代美術館。2013年に新館が開館以来、ここでは様々な展覧会が行われてきたほか、若手アーティストを支える多彩なプログラムも開催されてきた。今回、東京のオオタファインアーツで開催中(1月19日まで)の中国人アーティスト・唐狄鑫(タン・ディシン)の個展にあわせて来日した同館館長・陸尋(ル・シュン)に、私設美術館の取り組みや中国の私設美術館の現状について話を聞いた。

オオタファインアーツの個展で、陸尋(右)と唐狄鑫(左)

オオタファインアーツの個展で、陸尋(右)と唐狄鑫(左)

24の建築群からなる南京四方当代美術館

——まず、なぜ南京という場所に南京四方当代美術館を設立したいと思ったのか、その理由をお聞かせください。

陸尋 私のアートコレクションが一定の量に達していて、より多くの人々と共有したいと思っていたからです。南京はほぼ現代美術の“砂漠”なので、私たちの美術館は最初の私設美術館となりました。美術館は最初、南京市内にありましたが、2000年頃に建築家の磯崎新から「建築群のプロジェクトをしないか」という提案があったんです。当時、私たちはちょうど政府から土地を与えられていたので、国内外から12名ずつ建築家を招聘し、「南京四方現代芸術湖区」プロジェクトの建設に着手し始めました。

スティーヴン・ホール設計の南京四方当代美術館

——その「南京四方現代芸術湖区」プロジェクトについて詳しく教えてください。

陸尋 2003年にこのプロジェクトを開始したとき、土地を24に分割し、まずは12人の中国人建築家を南京に集めました。各土地の機能を簡単に分析して建築家に渡したんです。彼らはその分析結果をもとに、土地を見学し、約1年半後には私たちにすべての企画を送ってきました。これらの企画について数回の協議を重ね、2006年にはすべての企画が承認されました。ここから建築がスタートしたのです。湖区全体には公園、ホテル、リゾートなどがあり、アートはこれらの建築をつなぐコアとなります。美術館は毎年3、4回の展覧会を行っており、デイビット・アジャイとマンシーリャ+トゥニョンがデザインした2つの建物はアーティスト・イン・レジデンスの場として使用しています。また、屋外には不定期で作品を追加しています。

アイ・ウェイウェイ設計の「六間」

——南京四方当代美術館には、どのような特徴があるのでしょうか?

陸尋 いくつかの特徴がありますが、これらの特徴が長所か短所かはわかりません。私設美術館ですから非常に「個人的」なのです。組織的な感覚はそれほど強くはありません。西洋や日本の美術館の多くは、予算や承認などのプロセスや分業が非常に明確になっていますよね。しかし私たちの美術館はそうではありません。私設だからより多元的なプロジェクトをつくることができるという利点はありますが、標準化されていない点もあります。専門的なチームを探し、美術館を組織化し、今年のすべての展覧会と予算を3年前から決定する——そういうことも(やろうと思えば)できますが、私たちはその方向には進んでいません。

磯崎新設計の「コンファレンス・センター」

——作品の収集についてうかがいます。美術館はどのような方針でコレクションを構築しているのでしょうか?

陸尋 先ほどから申し上げているとおり、当館は私設美術館ですから、美術館のコレクションは個人のコレクションでもあります。美術館というのは、展覧会の開催などを含め、アーティストを包括的にサポートするものですよね。作品を購入するのは最後のステップにすぎません。私は、展覧会やアーティストの作品制作など、購入以前の段階にコミットしたいのです。多くの場合、私のコレクションは展示されていた作品であり、展示作品もコレクションから出ています。コレクションとプログラムとの関係は非常に緊密です。以前はとにかく作品を多めに収集していて、見たものをすべて購入したいという考えでしたが、いまは違います。作品を買うとき、プログラムとの関係について深く考えるようになりました。

完成予定のSANAA設計の「流動の空間」イメージ図

中国人アーティストを発見することの意義

——いま、南京四方美術館では新館開館5周年で毛焰(マオ・ヤン)と韓東(ハン・ドン)の展覧会を開催しています。この2人を選んだ理由は?

陸尋 仰るとおり、今年は新館開館5周年を迎えましたが、南京に関連した展覧会はこれまで行ったことがなく、今回が初めてなのです。我々は、南京出身のこの2人——非常にローカルですが偉大なアーティストです——の展覧会を行うことで、南京の豊かな文化圏を紹介したいです。毛焰と韓東は、現代においてもっとも偉大な画家と詩人と言えるでしょう。

「毛焰&韓東」展の会場風景より、右は毛焰の《椅子上のトーマス》(2009)

 中国では多くの美術館が西洋の著名なアーティストの個展をやっているのが現状です。だからこそ我々は「内観」をすること、つまり中国の本当に良いアーティストを発見することがとても重要だと感じています。毛の作品はごくわずかしか存在しておらず(この2〜3年で10枚くらいしか描いてないかもしれません)、展覧会は非常に珍しいんです。作品が売れても、それらを借りるのは難しいのですが、今回私たちは奇跡的に50以上の作品を借りられました。つまりこれは、毛焰にとって中国最大の個展なのです。

 いっぽうの韓東はとてもすばらしい詩人です。美術館の環境で詩を展示するのは私たちにとっても初めての試みになりました。詩は非常に精神的なものですよね。私たちがその精神的なものを美術館というシステムに入れたことで、韓東もとても喜んでいましたよ。

「毛焰&韓東」展の会場風景より、エレベーターの扉に印字された韓東の詩

——展覧会の反響はどうですか?

陸尋 最高です。2人とも多くのファンがいますからね。今回の展覧会では、絵画と詩との関係を、非常にうまく展示することができました。2人の作品はどちらも静謐で、同時に非常に詩的でもあります。絵の中に詩が見えて、詩の中に絵の感情が見えます。また、彼らは20年以上の親友で、つねに交流しています。表現方法は異なりますが、彼らが示す感情はとても似ているんですね。意図的なものではなく、付き合いの深さによって、彼らの作品には重なるような関係が生まれています。

——展覧会の準備過程ではどのような工夫がされたのでしょうか?

陸尋 コレクターは壁を空けることを嫌うので、通常絵画を借りるのは厄介なものです。毛の作品を好む人は本当に彼の作品が大好きで、展示していた壁が空いてしまうことをとても悲しがります。「旧正月の前に絵を返すことができるか?」と聞いているコレクターもいましたので、この展覧会をそこまで終わらせることにしました(笑)。

 また、詩の展示も難しい問題です。我々は詩の展示をやったことがありませんでしたから、美術館ではどのような形式がベストなのかをずっと考えてきました。そして最終的には、非常にシンプルな展示方法を採用しました。例えば、ワイヤーメッシュを使って詩を白い壁に直接印刷するなどです。展示方法が複雑すぎると、作品自体の味わいが変わってしまいますよね。詩は非常に精神的なものなので、その展示方法も精神的でなければなりません。詩的なものをただのネオン管の下に展示するのはダメでしょう。

「毛焰&韓東」展の会場風景より

私設美術館だからこそできること

——南京四方美術館が開館後、中国にはユズ美術館や昊(ハオ)美術館などの私設美術館が続々と開館しました。このような状況の中で、南京四方美術館はどのようにサバイバルしてくのでしょうか?

陸尋 じつは中国には私設美術館があまり多くないのです。欧米には、非営利団体や公立美術館、私設美術館といった様々な種類の専門機関がありますよね。しかし、中国にはありません。現時点で中国のアートシーンはまだ初期段階にあり、競争の段階にも達していませんから、「サバイバル」する段階ではありません。今後、私設美術館はもっと多くなればいいと私は考えています。

 私たちの美術館は南京にあるので、著名な欧米人アーティストの展覧会をしなくてはならないというプレッシャーはありません。南京でルイーズ・ブルジョワの個展を行っても、チケット販売による収入は倍増しないでしょう。それより、地元の若手アーティストを支援し、毛のような優秀なアーティストを発掘するといった面白いことに専念すべきです。もちろん欧米のアーティストも紹介しますが、知名度で選ぶのではなく、中国の若手アーティストと対話できるような作家を紹介したいですね。

2014年に上海にオープンした私設美術館、ユズ美術館の外観 © Yuz Museum

 現在、中国のアートビジネスが活況を呈しているのはおわかりかと思います。上海に行くと、世界でもっとも優れたアートシティだと感じるでしょう。しかし、事実はまったくそうではありません。それは表面上に過ぎず、上海にあるのは外からコピーしてきたモデルばかり。だから私たちはいま、若いアーティストがそれらの「外的な力」と戦う力を持てるように、サポートをしているのです。それこそが、都市がダイナミックになる原動力です。

 しかし、こういった活動をすべて私設美術館が担うわけにはいきません。例えば、政府レベルの現代美術館を設立し、豊富なコレクションも持つべきなのです。いまは、国家レベルの現代美術館もコレクションもありません。なぜウリ・シグはそのコレクション中国本土の美術館ではなく、香港のM+に寄付したのか?それを考えると、道のりはまだまだ遠いと感じます。

——そのような状況の中で、陸尋さんは南京四方当代美術館をどのように位置づけているのでしょうか?

陸尋 南京四方当代美術館はアーティストのための機関です。アーティストは私たちと非常にスムーズなコミュニケーションをとることができます。美術館はアーティストに権力を与え、アーティストが企画します。これは四方当代美術館の大きな特徴です。美術機関としての私たちは、アーティストが作品を実現するためのリソースやサポートを提供しています。ユートピアのように、アーティストを奨励することは非常に重要なことです。ユートピアは必ずしもポジティブな言葉ではありませんが、実際にアーティストは現実から逸脱することができて、お金の問題はすべて私が考えます。アーティストは考える必要がありません。

南京四方当代美術館の外観

——最後に、四方当代美術館と美術館のあるエリアについて、今後どのようなことを期待しているのかについてお聞かせください。

陸尋 美術館は進化し続けるプロジェクトでなければなりません。また、問題を提案して、それを解決できる場所であるべきです。唐狄鑫(タン・ディシン)は絵画とパフォーマンスで作品を発表している上海の若手作家ですが、彼が我々の美術館でパフォーマンスを行った際、私たちは、どのようにしてパフォーマンス・アートを収蔵できるかについて話し合いました。そして来年、パフォーマンス・アートのチャリティーオークションをやろうということになったのです。このオークションを通して、アーティストにパフォーマンス・アートを商業システムに持ち込む方法を促すのです。多くのパフォーマンス・アーティストはとても優れていますが、作品がまったく流通していません。アーティストもそれについて考えず、ギャラリーも販売できていない。

唐狄鑫が四方美術館で行っていたパフォーマンス、《Shooting the Moon》(2017)

 私たちは、このようなアーティストの生活環境に関わる問題を提起し、どうにすれば解決できるかをつねに考えているのです。これは四方当代美術館がミッションとして取り組んできたことであり、私たちは自分たちの活動すべてが役立つことをこれからも望んでいます。