数多くの地域にコンテンポラリーダンスを届けてきた「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル」も5年目を迎える。初の韓国公演を前に、同メゾンのダンス&カルチャープログラム ディレクターのセルジュ・ローランに、これまでの活動を振り返ってもらった。
「幅広い国の人々にアートを届けることの意義をつねに考えながら、プログラムを考えてきました。アートのない社会は経済と政治だけの社会であり、それだけでは世界の見方が偏ってしまうということになるでしょう。社会のなかにアートを盛り込むということは、異なる社会のあり方を見るということでもあり、それは現代において求められる視点です。コンテンポラリーダンスが世界に対して与えることができる影響は決して大きくはないですが、それでも小さな支援を積み重ね、一人でも多くの人の意識に訴えていくしかないのです」。
セルジュの語る小さな積み重ね、そしてその先にあるもの。その答えを考えるうえで重要となるであろう、最新の「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル」である、ソウルでの開催プログラムのなかから2公演を、舞踊評論家の岡見さえに評してもらった。
ホ・ソンイム振付『1 Degree Celsius(摂氏1度)』

『1 Degree Celsius(摂氏1度)』は、韓国拠点のホ・ソンイムの振付。現代ダンスでもグローバルイシューへの応答は活発であり、気候変動については2012年にフランスのラシッド・ウランダンが気候難民の映像を用いた『スフマート』を発表し、25年に日本でも上演されたアクラム·カーン振付『ジャングル·ブック』もこの系譜にある。
『1 Degree Celsius』も気候変動への問題意識が根底にあるとホは表明しているが、彼女の語り方はより暗示的だ。セットも映像も用いず、テーマに結びつくのは気温データを処理してつくられた抽象的なサウンドとライティングのみ。振付も感情やストーリーを明示しない。だからこそダンサーの身体性が際立ち、フィジカルな振付が切実な印象を増幅する。
冒頭、暗い舞台に這って登場するホは体幹を捻り、突き出た手足の関節をいびつに動かし、フランシス・ベーコンの絵画さながらの不気味な身体をじっくりと見せる。照度を増した舞台に6人の男女が現れ、下手から上手、上手から下手へ機械的な行進を繰り返すが、列は徐々に乱れていく。ある者は衝撃を受けた木々のように崩れ落ち、ある者は獣のように震え、あるいは身体を大きく弾ませる。異なる場所で複数のダンスが生起し、響き合う。6人は細かいカウントを捉え、片足を軸にしたピルエットをきっかけにタイミングを調整し、整然と混沌を踊る。中盤に再び現れるホの怪物的なソロとの対照も鮮烈だ。閉じられた舞台空間に多様なダンスが交錯し、観客自身の身体感覚を揺さぶる。ホがキャリアを築いた00年代ベルギーのスタイルを想起させる刺激的なムーブメント(彼女はヤン・ファーブル『主役の男が女である時』のダンサーだった)と、ストリートダンスのボキャブラリーを効果的に使い、ダンスはいまここにある危機の感覚を立ち上げた。
- 1
- 2























