滋賀へ。アートの旅に出よう
滋賀といえば、日本一大きい湖である琵琶湖、忍者の里として知られる甲賀、日本三大和牛の近江牛……だけではなく、アートエリアとしても魅力的であることをご存じだろうか。
まずはやきもの文化。粘性や耐火性に優れた土が採れ、信楽では京都や奈良に近いこともあって室町・桃山時代から文化人のあいだで茶陶が盛んに行われるようになり、たぬきの置物や新しい陶芸作品がいまも脈々とつくられ続けている。いっぽう、戦後間もない1946年には「日本の障害者福祉の父」と称される糸賀一雄らが障害のある子供たちのために近江学園を設立。陶芸家・八木一夫が関わって粘土を使った自由な創作を促したことで目を見張るような作品が生まれ、創作と結びついた障害者支援活動が地域に浸透。今日、アール・ブリュットとして高く評価される作品制作につながっており、今後、リニューアルを予定している県立近代美術館ではアール・ブリュットを柱のひとつとしている。今年9月15日~11月11日には8回目を数える「BIWAKO ビエンナーレ2018」が開催されるなど、アートな話題に事欠かない滋賀へ、いざ行かん。
│SPOT1 多彩な作品をボーダレスに展示
ボーダレス・アートミュージアム NO-MA
近江八幡の古民家で様々な境界を超える
近江商人発祥地のひとつとして知られる近江八幡。格子戸やうだつなどが見られる重要伝統的建造物群保存地区に、築90年の町屋を改築したミュージアムがある。近江学園をはじめ県内の福祉施設で長年取り組まれてきた、障害のある人の造形活動が発展するなかで、作品を常設できる空間を求める声が高まり、2004年に開館。運営は社会福祉法人グロー。名称は近江商人・野間清六の持家だったことにちなんでいる。
同館は、障害のある人の作品と一般のアーティストの作品とを並列して見せることで「人の持つ普遍的な表現の力」を感じさせるキュレーションが特徴。これによって、「障害者と健常者」「福祉と文化」といった様々なボーダー(境界)を超えていくのが狙いだ。
また、その越境は、国境や組織の枠を越えても行われており、06年からは、スイス・ローザンヌのアール・ブリュット・コレクションと連携し、世界に向けて日本のアール・ブリュット作品を紹介するなど、海外での展覧会にも取り組んでいる。新たな人材に活躍の場を提供するキュレーター公募企画展も好評だ。ほかにも、講演会やワークショップなどのイベントが企画されているので、最新情報はウェブサイトで確認を。展覧会によっては奥にある蔵や2階の小部屋などを活かした展示も楽しむことができる。
藤森にヴォーリズ。周辺の建築も必見!
・ラ コリーナ近江八幡
建築家・建築史家の藤森照信が手がけた、たねやグループのフラッグシップショップ「ラ コリーナ近江八幡」。メインショップ「草屋根」のほか、カステラショップ「栗百本」や「草回廊」、本社「銅屋根」が敷地内にある。
・旧八幡郵便局
近江八幡に点在するウィリアム・メレル・ヴォーリズの建築のひとつ「旧八幡郵便局」。スパニッシュ建築と日本の町屋造りを折衷した建物は1921年に建てられ、60年まで郵便局として使用され、現在は一般開放されている。
│SPOT2 最高に自由でクールな福祉作業所
やまなみ工房
一人ひとりの個性を最大限に生かして
布が変形するほど密に円を刺繍し続ける人もいれば、広告の裏から壁まで恐竜の絵で埋め尽くす人や、毎日15分間だけ大声で歌いながら同じ人形をつくり続ける人もいる。そしてそれらの作品が海外の有名美術館で展示されたり、アートフェアで高値で取引されたり、人気の土産品としても購入されている。「字の読み書きや足し算引き算は苦手かもしれないけど、彼らにしかできないことがあると思って大切にとっておいたら、いろんな人が注目してくれるようになったんです」。施設長の山下完和さんは言う。
1986年、知的障害者の福祉作業所として設立された当時は、外から受けた内職作業を黙々と行う施設だった。だが、数年経って山下さんが関わり始めた頃、施設のメンバーが夢中で落書きをしている姿を見て、「この人にはもっとやりたいことがあるのではないか」と、好きなことができるように環境を整えた。それが、「何をするか、何をどう表現するかは自由」という現在のスタイルに至るきっかけに。「メンバーが笑顔で満たされるためにはどうしたらいいかを考え、生まれてきたものや行為そのものを個性としてとらえています。彼らは社会の賞賛や評価は気にしない。アートというより生き様ですね」。利用者は現在83名。カフェやギャラリーで働きながら見学者と交流するメンバーもいる。工房に着くなり勢いよく駆けていき、楽しそうに各々の活動をしている彼らの作品を見に訪れてみては。
│SPOT3 廊下や床の間にも作品が並ぶアール・ブリュット満載旅館
塩野温泉
弘法大師によって発見されたという古湯をたたえる、1897(明治30)年創業の温泉旅館。近所に住む作家・岩下哲士さんとの交流をきっかけに先代が「もっと多くの人に知ってほしい」とアール・ブリュットの展示を始め、現在は五代目の辻英典さんが営んでいる。2012年には滋賀県のアール・ブリュット作品を展示する「美術旅館」のひとつに認定され、廊下や床の間に作品が並び、年に一度展示替えが行われる。宿泊客には記念品が贈られるのもうれしいポイント。
│SPOT4 広大な敷地にやきものが点在。陶芸専門美術館も
滋賀県立陶芸の森
自然豊かな公園の中にある一大焼きもの施設。陶芸専門の美術館「陶芸館」、地元の信楽焼メーカーの製品を扱う「信楽産業展示館」、アーティスト・イン・レジデンスを行う「創作研修館」があり、周辺には100点以上の作品が点在する一大やきもの施設。信楽焼のほか国内外の陶芸を紹介する「陶芸館」では、6月17日まで「ジャズ・スピリットを感じて… 熊倉順吉の陶芸×21世紀の陶芸家たち」展を開催中。ミュージアムショップでは陶器製のガチャガチャやオリジナルグッズも販売している。
│SPOT5 比叡山を望む琵琶湖のほとりの美術館
佐川美術館
水庭に浮かんでいるかのような美術館は、佐川急便株式会社が創業40周年を記念して1998年に開館。日本画家・平山郁夫、彫刻家・佐藤忠良、陶芸家・樂吉左衞門の作品を中心に展示を行う。3月21日~5月27日「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」、7月14日~9月17日「生誕110年 田中一村展」を開催。
│SPOT6 I.M.ペイの建築は桃源郷をイメージ
MIHO MUSEUM
茶道具、神道・仏教美術、書画、陶磁器、漆工などの日本美術から世界の古代美術まで約3000件のコレクションのうち、常時約250~500点を公開。ルーヴル美術館のガラスのピラミッドで知られる建築家・I.M.ペイが手がけた建築のテーマは桃源郷。6月3日まで「猿楽と面─大和・近江および白山の周辺から─」が開催中。