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「そこにある世界」を写し取る。
第42回「木村伊兵衛写真賞」受賞の原美樹子に聞く

なにげない風景や人々の姿などのスナップショットを撮り続けてきた原美樹子。写真集『Change』(The Gould Collection)で今年度の木村伊兵衛写真賞を受賞した原に、作品について聞いた。

原美樹子 Untitled 2009 写真集『Change』より © Mikiko Hara

偶然を集め写し取る、記憶の一端に触れる光景たち

 ファインダーはのぞかず、なにげない風景や人々の姿を、正方形の画面に切り取る。第42回木村伊兵衛写真賞を受賞したのは、スナップショットを撮り続けてきた原美樹子だ。

 「写っている人やものは確かに存在するけれど、固有名詞の『誰か』や『何か』として撮っているわけではないんです。見る人の記憶と呼応して、フレームの外や余白に何かが立ち現れれば」。撮りたいイメージを求めたりつくり出すのではなく「『そこにある世界』を写し取りたい」と話す。

原美樹子 Untitled 2008 写真集『Change』より © Mikiko Hara

 大学卒業後に就職した会社を2年で退職し、写真の専門学校に入学。初めての課題がストリートスナップだった。試行錯誤を経て、初個展を開催した1996年以降、一貫して同じスタイルで制作を続けてきた。自らの表現方法は愛用するドイツのクラシックカメラ「イコンタ」によってつくられてきたものでもあると言い、作品を「カメラにゆだねている」と表現する。

 受賞作の『Change』には96年から2009年までの作品が収録されている。被写体にこだわりはなく「写真は組み合わせによって、また別の見え方になる」ことに面白さを感じると話す。

「写真を撮ることは、子育てのような人生の営みに比べたら、とても不確かに思えます。特定のテーマを追い求めて制作するタイプではないし、器用でもないので、発展はあまりありませんが、現像してみると説明できない驚きや発見があって……」と語る原は、3人の息子の母親でもある。撮影に集中できる時間は限られているが、つねにカメラを持ち歩いてきた。

 サポートしてくれた夫が16年にこの世を去り、制作を続ける自信を失いかけたなかでの受賞だった。目標はあえて持たないが、「このスタイルで、まだできることがあるように感じています」と静かに語った。

原美樹子 Untitled 2006 写真集『Change』より © Mikiko Hara

『美術手帖』2017年6月号「INFORMATION」より)

編集部

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