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美術館、財団、工芸、建築から読む、ヴェネチアのアートスポット15選【2/3ページ】

6.カ・ペーザロ(Ca’ Pesaro)

ヴェネチアで日本美術の受容を読み直す

 カ・ペーザロは、大運河沿いのバロック宮殿を用いたヴェネチア市立近代美術館である。クリムト、シャガール、カンディンスキー、クレー、メダルド・ロッソ、ロダンら、19世紀から20世紀の絵画、彫刻、グラフィック作品を収蔵する。ヴェネチアにおける近代美術の受容を知るうえで重要な施設である。

カ・ペーザロのレストランからヴェネチアの運河を眺めることができる Photo by Luca Chiandoni

 同じ建物の最上階には、国立のヴェネチア東洋美術館が置かれている。コレクションの核となるのは、エンリコ・ディ・ボルボーネ=パルマ、通称バルディ伯が1887年から89年にかけての東アジア旅行で収集した日本・アジア美術である。江戸時代の美術を中心に、武具、漆器、陶磁器、染織、版画など約3万点に及ぶ収集品は、帰国後、伯が居所としていたパラッツォ・ヴェンドラミン・カレルジで公開された。その主要部分はのちにイタリア国家の所有となり、カ・ペーザロへ移され、1928年に東洋美術館として開館した。

コレクション展の様子。中央はポンペオ・マリーノ・モルメンティ《The death of Othello (2nd version)》(1866) Photo by Nico Covre

 かつて東方貿易によって栄えたヴェネチアが、近代に日本やアジアの美術をどのように収集し、分類し、展示してきたのか。その歴史をたどることで、ヴェネチアを「西洋美術の都市」としてだけではなく、日本やアジアをめぐるヨーロッパの視線が映し出された場所として読み直すことができる。

住所:Santa Croce 2076
開館時間:季節により異なる
休館日:月
チケット:有料、オンライン予約可
公式サイト:https://capesaro.visitmuve.it/en/

7.クエリーニ・スタンパリア財団(Fondazione Querini Stampalia)

水の存在を受け入れ、空間を豊かにするスカルパ建築

 クエリーニ・スタンパリア財団は、美術館、図書館、アーカイブ、建築が一体となったヴェネチアらしい文化施設である。1869年、ヴェネチアの貴族クエリーニ・スタンパリア家の最後の当主であったジョヴァンニ・クエリーニの遺志によって設立された。

カルロ・スカルパが改修を手がけたエリア Photo © Adriano Mura. Courtesy of Fondazione Querini Stampalia, Venezia

 この場所を特別なものにしているのが、カルロ・スカルパによる改修である。1959年から63年にかけて、スカルパは建物の地上階、展示空間、庭園を再設計した。ヴェネチアでは避けることのできない水の存在を排除するのではなく、建築の一部として受け入れ、石、水、金属、ガラス、段差、光を精緻に組み合わせている。

 ヴェネチアで水は、しばしば建物を脅かす存在である。しかしスカルパは、その水を閉め出すのではなく、床や段差、石のディテールのなかに受け入れた。保存と更新、都市と建築、水と素材の関係を考えるうえで、クエリーニ・スタンパリアはきわめて象徴的な場所である。貴族邸宅のコレクション、図書館、アーカイブが現在も生きた文化資源として使われている点も重要だ。

図書館 Photo © Adriano Mura. Courtesy of Fondazione Querini Stampalia, Venezia
住所:Castello 5252
開館時間:施設により異なる
休館日:月など
チケット:有料、オンライン予約可
公式サイト:https://www.querinistampalia.org/en/

8.ジョルジョ・チーニ財団(Fondazione Giorgio Cini)

対岸からヴェネチアを眺め直す、島のアーカイブ

 サン・マルコ広場の対岸、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島にあるジョルジョ・チーニ財団は、ヴェネチアでもっとも豊かな文化拠点のひとつである。1951年、ヴィットリオ・チーニが亡き息子ジョルジョを記念して設立した財団で、荒廃していた修道院複合体を文化、研究、音楽、工芸、展覧会の拠点として再生した。

ジョルジョ・チーニ財団 © Alessandra Chemollo

 島には、パッラーディオやロンゲーナにゆかりのある建築、回廊、図書館、庭園、音楽施設、ボルヘスの迷宮、ヴァチカン・チャペルズなどが点在する。なかでもレ・スタンツェ・デル・ヴェトロ(Le Stanze del Vetro)は、20、21世紀のガラス芸術、とりわけムラーノ・ガラスの研究と展示を継続的に行う重要なスペースである。写真を扱うレ・スタンツェ・デッラ・フォトグラフィア(Le Stanze della Fotografia)とあわせて、島全体が美術館であり研究機関でもあるような構成をもつ。

バルボラ・シュラペトヴァ&ルカシュ・リッツシュタイン「How to Reach the Sky」展(2026年4月17日〜7月12日)の展示風景

 サン・ジョルジョ・マッジョーレ島から見るヴェネチアは、観光客で混み合う本島とは異なる距離をもつ。チーニ財団を訪れることは、ヴェネチアを内側から消費するのではなく、対岸から眺め直す経験でもある。工芸、写真、音楽、建築、アーカイブが交わるこの島は、ヴェネチアを「展覧会の街」としてだけでなく、「研究と継承の街」として捉え直すための場所である。

住所:Isola di San Giorgio Maggiore
開館時間:施設・ツアーにより異なる
休館日:水曜休館の施設が多い
チケット:施設・ツアーごとに要確認
公式サイト:https://www.cini.it/en/

9.パラッツォ・フォルトゥニー(Palazzo Fortuny)

布、光、身体が美術とデザインの境界を溶かす

 パラッツォ・フォルトゥニーは、スペイン出身の芸術家・デザイナー、マリアノ・フォルトゥニーの邸宅兼アトリエをもとにした美術館である。正式にはパラッツォ・ペーザロ・デリ・オルフェイと呼ばれるゴシック様式の建物で、フォルトゥニーと妻アンリエット・ネグリンの創造活動の痕跡をいまに伝えている。

ゴシック様式の建物が特徴的であるパラッツォ・フォルトゥニー Photo by Nico Covre

 フォルトゥニーは、絵画、写真、舞台照明、テキスタイル、服飾、インテリアを横断した人物である。彼の名を有名にしたプリーツドレス「デルフォス」をはじめ、染織や舞台装置の実験は、美術とデザイン、工芸とファッションの境界を揺るがすものだった。近年では、フォルトゥニーの名のもとに語られてきた衣服やテキスタイルに、妻アンリエット・ネグリンの技術と創造性が深く関わっていたことにも関心が向けられている。

生活空間や素材、光、布の関係そのものが展示されている館内 Photo by Nico Covre

 館内では、作品だけでなく、彼らが構築した生活空間、素材、光、布の関係そのものが展示されている。ドリス・ヴァン・ノッテンやパラッツォ・モチェニーゴとあわせて訪れると、ヴェネチアがたんなる絵画の都市ではなく、布、装飾、舞台、身体、光の都市でもあることが見えてくる。

住所:San Marco 3958
開館時間:季節により異なる
休館日:火など
チケット:有料、オンライン予約可
公式サイト:https://fortuny.visitmuve.it/en/

10.パラッツォ・グリマーニ(Palazzo Grimani)

古代彫刻だけでなく、展示史そのものを体感

 パラッツォ・グリマーニは、ヴェネチアのなかでもとくに異彩を放つ宮殿美術館である。16世紀、グリマーニ家によって整えられたこの館は、古代ローマ美術、ルネサンスの建築趣味、ヴェネチア貴族文化が凝縮された空間として知られる。

パラッツォ・グリマーニ「トリブーナ」の様子 Photo by Matteo De Fina

 最大の見どころは、古代彫刻コレクションを収める「トリブーナ」。ジョヴァンニ・グリマーニが築いたこの空間には、かつて130点を超える古代彫刻が収められ、客人を迎えるための場でもあった。ヴェネチアにおける古代受容の象徴であり、現在の国立考古学博物館のコレクション形成にもつながる重要な歴史をもつ。近年は「ドムス・グリマーニ(Domus Grimani)」プロジェクトにより、かつての彫刻群を宮殿内に再配置する試みも行われた。

パラッツォ・グリマーニ「ドージェの間」 Photo by Matteo De Fina

 パラッツォ・グリマーニの魅力は、古代彫刻そのものだけではない。彫刻をどのように集め、どのように宮殿のなかに配置し、どのように権力や教養を示したのかという、展示史そのものを体験できる点にある。歴史的空間と現代作家の介入が交差するとき、グリマーニは古典の館だけではなく、過去の展示制度と現在の表現を照らし合わせる舞台となる。

住所:Castello 4858
開館時間:通常 10:00〜19:00前後
休館日:月
チケット:有料、オンライン予約可
公式サイト:https://museogrimani.cultura.gov.it/

編集部