アラブ首長国連邦(UAE)の首都、アブダビ。その北端に位置するサディヤット島は「サディヤット文化地区」として、博物館、教育、文化施設を通じ、多様な文化を集め、知識と理解を促進するグローバルな拠点としての整備が進む。2025年に向けて整備が進むこの地域に建設された、または建設中の各施設を紹介したい。
ザイード国立博物館
サディヤット文化地区の中心に位置し、建設が進んでいる「ザイード国立博物館」。そのコレクションは7000万年前の貝類の化石から、シェイク・ザイード・ビン・スルタン・アル・ナヒヤーンによって建国されたアラブ首長国連邦の歴史にいたるまで、歴史を総覧するかのようなコレクションが集まっている。
新石器時代の真珠や青銅器時代の共同墓、紀元前1000年頃のファラジの灌漑システム、紀元前3世紀につくられたアラム語のコイン、アブダビのアル・アインにあるUAE最古のアッバース朝時代のモスク、15世紀の海洋交易や18世紀までの砂漠の交易など、UAEがたどってきた歴史が総覧できるようになる予定だ。
イギリスの建築事務所、フォスター・アンド・パートナーズによる、船の帆のように天に構造物が伸びるその独特の建築は、全容を現しはじめている。展示物のみならず、この建築を訪れることが、来訪者にどのような体験を与えてくれるのか、期待が高まる。
アブダビ自然史博物館
希少な博物標本などを収集する科学研究および教育機関であると同時に、地球の進化する物語について学ぶための教育リソースとなることを目指すアブダビ自然史博物館。
博物館内の研究施設では、動物学、古生物学、地質学、海洋生物学、分子研究、昆虫学、地球科学など、様々な分野の研究が行われる予定。また、展示室では各種の標本や臨場感あふれる展示が行われ、宇宙の進化や地球の形成、生命の歴史などを学ぶことができるようになる。
建築を担当したのはオランダの建築事務所・メカヌー。展示空間は35000平米を誇り、自然の岩層と共鳴するような建物が予定されている。
ルーヴル・アブダビ
「ルーヴル・アブダビ」はルーヴル美術館の別館として2017年にオープン。600点の所蔵作品に加えて、パリのルーヴル美術館をはじめとするフランス国内13の美術館・博物館から貸し出された300点が展示されている。詳細レポートはこちら。
常設展示は、全12章によって人類がこれまで表現してきたものを年代順に紹介し、人類の歴史を展観するものとなっている。展示室には各国、各時代から集められた貴重な人類の財産が並ぶ。
建築はフランスの建築家、ジャン・ヌーヴェルが担当。約8000個のメタル製のパーツで構成された直系180メートルのドームが全体を覆っており、外部から見ても強い印象を残す。来場者は展示室から、このドームに覆われた屋外空間へと出ることができ建築のダイナミズムを体感することができる。
マナラット・アル・サディヤット
サディヤット文化地区において、各施設のハブとしての役割を担う「マナラット・アル・サディヤット」。ここはアブダビの芸術、文化活動、コミュニティイベントのための場所とスペースとして機能している。
国内外の現代美術作家の展覧会を行うギャラリースペース、パネルディスカッションやトークイベントなどを開催できる劇場スペース、アートスタジオとフォトスタジオを備えると同時に、訪れる人々の誰もがリラックスしたコミュニケーションをできる場となっている。
また、現在の「マナラット・アル・サディヤット」は、今後オープンが予定されている、サディヤット文化地区の各文化施設を紹介するスペースとしても機能している。この地域が目指している姿を知りたいのであれば、まずここを訪れるといいだろう。
グッゲンハイム・アブダビ
アブダビ文化観光局とアメリカのソロモン R. グッゲンハイム財団の共同研究により誕生するグッゲンハイム・アブダビ。すでにその姿を現しつつあるが、なんといっても本家と同じフランク・ゲーリーの設計による、個性的な外観が特徴だ。
本館は60年代以降の近現代美術を中心に展示する予定で、とくに西アジア、北アフリカ、南アジアといった地域の芸術に焦点を当てたコレクションを形成。 600点を超える作品が集まっているという。
西洋中心主義ではない、アジアにおける現代美術の拠点のひとつとして、大きな影響力を持つことが期待される本施設。「マナラット・アル・サディヤット」では、すでにコレクションとして展示されることが決まっている作品が集められており、アンディ・ウォーホル(1928〜1987)や、ドバイのハッサン・シャリーフ(1951〜2016)、インドのナスリーン・モハメディ(1937〜1990)の作品を見ることができる。
チームラボ・フェノメナ・アブダビ
プログラマー、エンジニア、建築家、CGアニメーターなどからなるチームラボ。プロジェクションマッピングを大規模に使ったインスタレーションで知られる、いまや世界中で高い人気を誇るチームラボ。彼らはサディヤット地区でもプロジェクト「チームラボ・フェノメナ・アブダビ」を進行中だ。
「アートとテクノロジーとサイエンスの交差点を模索し、 訪れるすべての人の好奇心、 イマジネーション、 創造力を刺激する空間」を目指すという本施設は、2024年中のオープンを予定。
延床面積は約1万7000平米を誇り、その建築はチームラボがコンセプトを、アブダビを拠点とするMZ Architectsが設計を担当した。この建築が作品が生命体のように自由で有機的に変化する環境を提供するという。
バークリー音楽大学アブダビセンター
アメリカ・ボストンに拠点を置く、世界的に著名な音楽大学として知られるバークリー音楽大学。同大学と連携した音楽教育施設が「バークリー音楽大学アブダビセンター」だ。
本大学はUAE国内のみならず、インドやアフリカをはじめとする周辺諸国からも、広く学生を集めており、この地域における音楽教育のハブとして機能している。
バークリー史上最大規模の奨学金プログラムである500万ドルの奨学金も含まれており、これを通じて中東や北アフリカ地域の学生に、本国、スペイン・バレンシア、そしてオンラインのバークリー大学のプログラムを受ける機会を与えている。
アブラハム・ファミリー・ハウス
最後に、サディヤット文化地区の中央にある「アブラハム・ファミリー・ハウス」を紹介したい。ここは世界的に見ても珍しいイスラム教のモスク、ユダヤ教のシナゴーグ、そしてキリスト教カトリックの教会という、ルーツを同じにする宗教の3つの礼拝堂を一箇所に集めた複合宗教施設だ。
設計を担当したのは、エジプトとサウジアラビアで育ったというイギリスの建築家、デービッド・アジャイ。一片が約30メートルの立方体の建築が3棟並び、それぞれの宗教における礼拝の機能を果たしている。
モスクの内部はムハンマドが掲示を受けたという洞窟を、シナゴーグの内部はユダヤ教の祝祭に使われるテント「スッカ」を、教会の内部はキリストの神聖を表現した光を表現。
いまも宗教対立を要員とする暴力が世界中で続くなか、宗教国家であるUAEがいかなる役割を果たしていこうとしているのか。その姿勢が現れた施設のひとつと言えるのではないだろうか。