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有識者が選ぶ2022年の展覧会ベスト3:山本浩貴(文化研究者)

数多く開催された2022年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は文化研究者で好評連載中「10ヶ月で学ぶ現代アート」の筆者でもある山本浩貴のテキストをお届けする。

文=山本浩貴

高知県立美術館の「みる誕生 鴻池朋子展」展示風景より、鴻池朋子《高松 皮トンビ》(2022)

「みる誕生 鴻池朋子展」(高松市美術館・静岡県立美術館/7月16日~9月4日・11月3日〜2023年1月9日)

「みる誕生 鴻池朋子展」(高知県立美術館)展示風景より

 「美術」は目で見るものだという前提と、「美術」は人間のためにあるものだという前提、すなわち近代美術において支配的な視覚中心主義と人間中心主義の双方を鴻池朋子の芸術実践は軽やかに乗り越えてみせた。「みる誕生」は、「芸術」概念を拡張するが、注目すべき点はそれが二重構造をもつことだ。まずは、視覚以外の感覚を動員した鑑賞=干渉をうながすことで、目が見える人を前提とした「鑑賞者」の概念を拡張する。同時に、各美術館が所蔵する古今東西の「名作」と動物の糞を模した「彫刻」が同一空間に並置された。ゆえに、本展は会場とともに姿かたちを変える。来年度に予定される青森県立美術館での巡回展がいまから楽しみだ。

「エモーショナル・アジア 宮津大輔コレクション×福岡アジア美術館」(福岡アジア美術館/9月15日~12月25日)

「エモーショナル・アジア 宮津大輔コレクション×福岡アジア美術館」展示風景より 提供=福岡アジア美術館 撮影=長野聡史

 サラリーマン・コレクターとして知られる宮津大輔氏の、30年近くにわたる現代アートの収集方針の一貫した軸が見える展覧会だった。氏がコレクションを始めた1990年代は、現代アートの世界が急速にグローバル化し、日本でも英米圏のアーティストへの注目度が高まった。そうした状況のなか、自らの審美眼を信じ、またアジアのアート界で起こる地殻変動の気配を見据えてアジア作家をコツコツと集めてきた宮津コレクションの先見性は特筆に値する。加えて、とくに映像作品の豊富さも目を引いた。同コレクションを美術館で見せるにあたり、福岡アジア美術館以上の適所はない。同館収蔵品と組み合わせられることで、お互いのコレクションの特徴や個性が際立つ展示構成であった。

「シュウゾウ・アヅチ・ガリバー 消息の将来展」(BankART KAIKO・BankART Station/10月7日〜11月27日)

「シュウゾウ・アヅチ・ガリバー 消息の将来展」展示風景より

 日本近現代美術史史上、もっともラディカルかつ徹底的に「芸術」概念の拡張を推し進めたアーティストのひとりであるシュウゾウ・アヅチ・ガリバーの回顧展であり新作展。長らく海外の美術館やギャラリーを中心に紹介されてきたこともあり、そのユニークな足跡に比して、彼の活動の詳細は日本国内ではまだ十分に知られていない。本展では、1960年代に開始された先駆的な実験映画のとりくみから、1980年代に実現された己の肉体の臨界に挑むパフォーマンスを経由し、会場となる横浜市を舞台に制作された新作までが一堂に会し、シュウゾウ・アヅチ・ガリバーという作家の驚くべき領域横断性がよくわかる展覧会となっていた。

編集部

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