我々一人ひとりに、「デヴィッド・ボウイとはなにものか?」を問いかける貴重な巡回展だ。2016年1月初め、最新作、『★』(ブラックスター)の全世界リリースの2日後に逝去という、信じ難くも出来すぎた訃報によってボウイ熱がさらに高まるなか、彼の生誕70年にして一周忌を迎える絶好のタイミングでの日本上陸。初回のロンドンではボウイはまだ生きていた。しかしここ東京の会場には、亡き偉人への哀悼の空気が強く漂う。ボウイの影響下にあると語る多くの表現者たちと同じく、私もかれこれ30年以上の創作活動の中で、作品タイトルはもちろん、似ても似つかぬセルフポートレイト作品でオマージュを捧げたり、音楽表現にも挑戦したり、俳優業にも手を伸ばしたりと、彼に対する憧憬と尊敬を軸としてきた。
そんなボウイの大回顧展を東京で鑑賞できるなんて、これは願ってもないチャンスだが、喪に服して1年ではまだ足りない気がして、実のところ冷静に向きあえる自信がなかった。しかし、一歩会場に足を踏み入れれば、膨大なアーカイブとコレクションが、特筆すべき秀逸なキュレーションとテクノロジーによって、生前のボウイの溢れんばかりの創作欲とラジカルな姿勢を見事に再構築しているさまに驚き、身震いした。
さらに、いまや遺品となったさまざまなアイテムを舐めるように鑑賞しつつ会場を進むうち、人知れず悩み、嫉妬して焦燥しながらも学び、あがき続けた真摯な態度……美しき容姿や奇抜な衣装に隠されて見えていなかった、一人の実直な表現者の深淵を覗いたように思え、『DAVID BOWIE is COMPLEX』という答えに導かれた。これはたんに、ロックスターの遺品を陳列しただけの展示会にあらず。“20世紀でもっとも影響力のあるアーティスト”と高く評される、本物の芸術家の人生を追体験する重要なアートエキシビションだ。諸君、時はきた。WATCH THAT MAN!
(『美術手帖』2017年3月号「INFORMATION」より)