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現代アートにおける「戦うこと」の必要性から、キュレーションの可能性まで。『美術手帖』4月号新着ブックリスト(2)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。現代美術市場や文化芸術分野に対する公金支出をめぐる論争を取り上げる書や、多分野に応用できる「知的生産術」としてキュレーションを拡張する1冊など、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

現代アートを殺さないために ソフトな恐怖政治と表現の自由

 政治的立場の対立が文化の領域において先鋭化したかたちで表れる「文化戦争」を主題に、現代美術市場や文化芸術分野に対する公金支出を巡る論争が描写される。ゴシップも挟んだ概説は非常に読みやすい。加えて、日本の現代アート関係者の日和見主義的ともいえる態度への批判的な姿勢も読み取れる。タイトルに対する直接的な処方箋は提示されていないが、「戦うこと」の必要性が暗に示されている。あいちトリエンナーレ2019を受けて潮目が変化し、「戦うこと」の重要性が認知され始めているようにも思われるいま、本書でなされた診断には議論の余地があるだろう。(岡)

『現代アートを殺さないために ソフトな恐怖政治と表現の自由』
小崎哲哉=著
河出書房新社|2700円+税
 

ジョルジョ・デ・キリコ 神の死、形而上絵画、 シュルレアリスム

キャプション

 こごった時間、狂った遠近法、謎めいたオブジェ。1910年代のデ・キリコは独自の造形言語を操り、生涯のうちでもっとも充実した形而上絵画の季節を過ごした。美術史上ではデ・キリコのこれらの傑作がシュルレアリスムに与えた影響が取り沙汰されがちだが、形而上絵画自体の原理はどのような思想のもとに醸成されたのか。ニーチェの哲学、とくに西洋における「神の死」が形而上絵画の世界観に取り込まれたとする観点から、デ・キリコの絵画に出現する円環のモチーフや「生の無意味」というテーマを子細に分析する。(中島)

『ジョルジョ・デ・キリコ 神の死、形而上絵画、 シュルレアリスム』
長尾天=著
水声社|4500円+税
 

拡張するキュレーション 価値を生み出す技術

 美術の世界ではキュレーションは展覧会企画を意味する言葉として知られているが、本書ではこの概念を拡張し、多分野に応用できる「知的生産術」としてとらえる。では、「モノとしての情報」を分類・整理して新しい体系をつくりあげるキュレーションの技術は現場でどのように実践されてきたか。無名の工人の工芸品を個人の価値判断で蒐集する柳宗悦、地域や社会問題に目を向けさせる国際芸術祭、原爆や震災の被害を後世に受け継ぐ展示施設など、美術から政治まで様々な事例にキュレーションの可能性を読む。(中島)

『拡張するキュレーション 価値を生み出す技術』
暮沢剛巳=著
集英社|880円+税

『美術手帖』2021年4月号「BOOK」より)

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