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「彫刻」や「展覧会」の可能性と不自由さを問う。タマビ「バーチャル彫刻展」の試み

多摩美術大学彫刻学科が、興味深い試みをスタートさせた。「バーチャル彫刻展」は、現実では実現不可能な作品を含めて、学生が様々な彫刻作品をバーチャル空間に展示するというもの。本展を企画した高嶺格と木村剛士、そして監修した谷口暁彦に話を聞いた。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、張瓏耀《火星のバベル》

 新型コロナウイルスが世界を席巻する現在、美術の世界では様々な展覧会がオンラインにその場を移し、デジタル化が加速している。そうしたなか、多摩美術大学(以下、多摩美)彫刻学科が「バーチャル彫刻展」という展覧会をスタートさせた。

 本展は、同学科2年生以上の有志が参加する展覧会で、企画を同学科教員でアーティストの高嶺格と木村剛士が、アドバイザーを豊田市美術館学芸員・能勢陽子が、監修と技術指導を多摩美情報デザイン学科教員でアーティストの谷口暁彦が務めている。この展覧会の開催背景や意図について、高嶺、木村、そして谷口の3人に話を聞いた。

バーチャル彫刻展の入り口

──まず、この展覧会を開催しようと考えた理由について教えて下さい。

高嶺 僕は今年の春に多摩美術大学に着任したのですが、同時に新型コロナで大学に入構できない事態になってしまった。そうしたときに彫刻科として何ができるのかを、教員同士でオンラインで話し合ってきたのです。そんなときに武蔵野美術大学の学生有志がやっていた「バーチャルムサビ展」を見て、こういうのが多摩美でもできれば面白いんじゃないかと。「バーチャルムサビ展」は平面作品が多かったのですが、むしろ立体作品のほうがバーチャル空間での展示に向いているのではないかと考えたのです。

──コロナ禍では様々な展覧会がオンライン(バーチャル)に場を移し、行われてきましたが、いっぽうで「オンラインの限界」も見えてきました。「彫刻」は質感やサイズなど、オンラインで伝わりにくいジャンルの最たるものだと思うのですが、その点についてはどのようにお考えですか?

高嶺 いまはデジタルで彫刻をつくる技術も向上していて、バーチャルで作品をつくる作家たちも出てきています。そうした状況に、彫刻科としてもなんらかのかたちで向き合っていく必要はあるんじゃないかと思うのです。

谷口 「彫刻とは何か」を極限まで考えると、必ずしも実在を扱うことが必要ではないはずなんです。いまの新型コロナの状況においては必然的に「そもそも展覧会や作品とは何か」という問いが生まれる──つまりこれまでの前提条件がリセットされてしまいます。そうすると、最小限必要な要件とは何かを考えなくていはいけなくなるし、考えることで本質に近づくことができたりもする。

 そこが今回の「バーチャル彫刻展」の肝で、「実在」が使えないからこそ、学生たちも「そもそも彫刻とは何か」という問いについて考えることができたんじゃないかなと思うのです。

 学生からも、「そもそも“バーチャル彫刻”ってなんですか?」という質問が来て、そこから生まれた議論も面白かったんです。バーチャルにすることで「彫刻」という存在が宙吊りにされつつも、いろんな作品が生まれてきた。

展示風景より
展示風景より

──制作指導もすべてオンラインで行われたのですか?

谷口 そうですね。僕は学科が違うので直接は学生の顔を知らないのですが、質問はたくさん来ました。活発な議論ができて密度が濃い時間でしたね。造形的な部分は学生がつくり、プログラミングなどテクニカルな部分は僕がアドバイスしています。

木村 最初はいわゆる彫刻作品をバーチャル空間に置こうという構想だったのですが、ゲームエンジンの「Unity」を使うことで、発想がかなり自由になっていったんです。

 逆に言うと、学生は今回のことで「彫刻の不自由さ」を感じたかもしれませんね。これまでいかに「彫刻」というイメージに抑圧されていたかを自覚できれば、実制作に戻ってきたとき、反動として響いてくるのだと思います。

展示風景より
展示風景より

──コロナ時代においては、作品発表や制作のあり方も揺らいでいると思います。お三方はそれぞれ、どのような考えを持っているのでしょうか。

高嶺 「作品によって大勢の人に同時に訴える」ということを考えなくてもよくなった、と言えるのではないでしょうか。実験的なことに躊躇なく向き合えるようになった。人知れずやっていることに、焦りを感じずにできているのは大きいですね。

木村 従来の彫刻のあり方は通用しなくなる時代が来るのかなと思います。作品をつくれば場所が必要だし移動も生じます。とくに彫刻は場所性が重要ですから。そういう意味ではやりづらくもありますが、(リアルな)彫刻自体が貴重なものとなる時代が到来するのかもしれません。

谷口 大学教員としては、現在は実物の作品をつくる学生にとってはいい状況ではないと思います。僕が所属している学科では、近年、作品のスケールが小さくなる傾向や、実在を扱う作品が減少している傾向が感じられていて、それが加速するんじゃないかと懸念しています。それは時代の変化なのかもしれませんが。いっぽうネット・アートという点から見ると、そもそもネット・アートはブラウザでの鑑賞がベースであり、展示を前提としていないジャンルです。だから現在のリアルな展覧会がマストではなくなっている状況は興味深いですね。

 これまでは作品制作と展覧会がセットであるという考えが自明のものとして認識されてきましたが、それすらも問い直す時期が来ているのではないでしょうか。

展示風景より、池内聖司《残っていくもの》
展示風景より、柴田真央《熱_stròke》

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