論説:パンデミック時代のドイツの文化政策(2)【2/5ページ】

連邦文化大臣の声明と支援策

 フリーランスの生活と活動の維持を憂慮したドイツ文化評議会の提案を受けて、ドイツ連邦文化大臣モニカ・グリュッタースは3月23日、文化領域への大規模な支援策を発表した(*11)。すでにグリュッタースは3月11日に連邦政府による支援声明を出していたが、具体的な施策を発表したのは今回が初めてである。

 芸術団体や文化・創造産業に対して、零細企業・自営業者向緊急支援枠500億ユーロ(約6兆円)を適用し、助成金および貸付のかたちで提供。それに加えて、個人の生活維持のために100億ユーロ(約1兆2000億円)を供与する。また、プロジェクトが中止になっても助成金の返還は可能な限り求めない、という内容である。グリュッタースは連日メディアに登場し、とくにフリーランスの芸術家に希望を与えてきた。以下に、3月23日のドイツ放送(Deutschlandfunk)のインタビューから抄訳してみよう(*12)。

 「わたしたちがコロナ危機において考慮しなければならない非常に重要な集団がある。その集団は自分たちのためだけではなく、社会の中でわたしたちすべてにとっても大変に価値のある仕事をしているからである。わたしたちは本日、文化・創造・メディア分野に対しても、実際に三本柱からなる大型の支援策を閣議決定した。これは第一に、零細事業者が安心して経営を続けられること──キーワードは賃貸料──そして第二に、個人の暮らしが守られることである。もっと素早く基礎保障に手が届くこと。たとえば、宿泊や暖房のための支援である。次に第三の領域であるが、多くの個別施策によって困難を緩和すること、たとえば破産法の緩和、あるいは2ヶ月家賃を滞納した場合でも解約されないなどである」。

ベルリンの旧博物館 出典=ウィキメディア・コモンズ(Pöllö / CC BY https://creativecommons.org/licenses/by/3.0)

 連邦政府は基礎保障への窓口を──とりわけ個人自営業者に対して──広げたいと、グリュッタースは述べた。6ヶ月の期間、まずは生活の苦しくなった子育て世代のために、手持ち資産の有無を問うことなく、児童手当が月に2万2000円増額され、住居と暖房のための経費が認められる。現在の住居に住み続けることができ、また芸術家社会保険の掛金が引き下げられるという。文化分野で働いている人たちの大半は、普段からつましい生活を送っているが、その人たちにいち早く援助の手を差し伸べたいと、連邦文化大臣は語った。

 ドイツにおける文化分野は、経済原動力としてエネルギー分野よりも規模が大きく、25万6000の企業を抱える、もっとも利潤を上げている業界のひとつである。これには、連邦政府が給付金によって支援しようとする多くの小企業や零細企業も含まれている。この給付金は返還を求めるものではないという。

 その金額は、個人事業者もしくは従業員5人までの企業に対しては、3ヶ月間9000ユーロ(108万円)まで給付される。従業員5人以上10人以下の場合は、3ヶ月間1000ユーロから1万5000ユーロまで給付される。それ以降については様子を見る必要があるという。緊急支援は、ギャラリー、書店、小規模映画館、ミュージッククラブの賃貸料のためのものであり、「事業者が誰ひとりとして脱落しないでほしい」とグリュッタースは述べた。それでも不十分な場合は、取引銀行を通して3万ユーロ(360万円)の短期融資が受けられる。これは新法に従って、面倒な手続きなしで与えられることとなる。

 損失リスクの80パーセントは国家すなわち復興のための信用銀行によって肩代わりされる。また、できるかぎり助成金の返還を求めることはない。「それゆえ、もしもコンサートがパンデミックが原因で実施できないとすれば、わたしたちは一度支払われた助成金の返還を要求することはない」とグリュッタースは述べた。

 現在、デジタルプラットフォーム上で行われていることは、どれほど賢い基本政策によっても(政府では)考案できなかったであろう。したがって文化大臣は、デジタルに対しても支援の資金を用意しているという。以下は、グリュッタースの芸術家への呼びかけである。

 「この分野がいかに大切かという認識は大きく広がっている。目下、文化は大切なのだということを、わたしたちは仲間内で語り合っているのではない。また政治の中で発言しているだけでもない。社会においても多くの人たちが文化の大切さを理解してきている。文化はよい時代にだけ営まれる贅沢ではない。文化は生活と社会に必要不可欠なものである。文化が中止となったその瞬間、それが失われたことで、わたしたちはそのことに気付くのである。こうした芸術家が創造するものは人間性の表現である。そしてわたしたちは今日、このことを以前にも増して必要としている。だからこそ、大きな支援プログラムも必要なのである」。

編集部

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