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INSIGHT - 2020.5.25

論説:イギリスのパンデミック文化政策。フリーランサーを重視する理由

新型コロナウイルスによって大きな影響を受ける芸術文化活動では、各国で様々な支援が行われている。ここでは、フリーランサーを重視するイギリスの文化政策について、その具体的内容と背景をAIR Lab アーツ・プランナー/リサーチャーの菅野幸子が論説する。

文=菅野幸子(AIR Lab アーツ・プランナー/リサーチャー)

(C)Pixabay

 英国の新型コロナウィルス危機に対応する文化政策の中で重視されているのが、フリ ー・ランサーに対する支援である。

 3月24日、アーツ・カウンシル・イングランド(ACE)は、文化芸術セクターにおける新型コロ ナウィルス危機対策として 1.6億ボンド(216億円)の緊急対応パッケージを発表した。 その内訳は、

1. ナショナル・ポートフォリオ団体(ACE助成団体)を対象として 9000万ポンド(122億円)
2. (1)以外の全国の文化芸術団体を対象として 5000万ポンド(68億円)(1団体当たり上限3500 ポンド(47万円))
3. 全国の文化・クリエイティブ産業従事者を対象として2000万ポンド(27億円)(ひとり当たりの上限2500 ポンド(34万円))

としている。3の対象分野は、音楽、劇場、ダンス、美術、文学、複合芸術、美術館・博物、図書館が含まれ、職種としては、振付家、劇作家、翻訳家、プロデューサー、編集者、ACE が支援するすべての芸術分野のフリーランスのエデュケーター、作曲家、ディレクター、デザイナー、アーティスト、工芸作家、キュレーターなどである。新型コロナウイルスに感染した人々も支援対象となっている。また、団体を対象とした助成であっても、関係するフリーランサーとの契約や雇用を重視 するように言及している。5月1日時点で、2と3の公募に対し、全国から1万4000件の申請があった。

 また、国家レベルでの支援策でも、あらゆる分野におけるフリーランサー、個人事業主 への支援も行われている。3月26日、政府は個人事業主への支援を策を発表。個人事業主を対象として月額2500ポンド(34万円)を上限として、過去3年の平均月収の80パーセントを3ヶ月間給付。予算は3500億ポンド(約47兆円)となっている。この他、税の軽減、家賃補助など様々な支援策が提供されている。

 なぜ、フリーランサーを重視するのか。周知の通り、現在の英国の基幹産業となってい るのが、いわゆるクリエイティブ産業であり、

1. 広告およびマーケティング
2. 建築
3. 工芸
4. デザイン(ファッションデザインを含む)
5. 映画、テレビ、ラジオ、写真
6. IT、コンピューター・サービス、ソフトウェア
7. 出版
8. 博物館、美術館、図書館
9. 音楽、パフォーミング・アーツ、ビジュアル・アーツ
10.アニメーション、視覚効果
11.ビデオ、ゲーム
12. 文化遺産

の12分野が含まれる。従業者数は200万人を越え、今後も増加すると見込まれているが、その多くがアーティストやクリエーター、デザイナー、キュレーターであり、実際は契約ベースで勤務するフリーランサーでもある。

 また、英国はあらゆる分野におけるデジタル化も推進しているが、IT・デジタル技術の進化は、ひとりで複数の仕事を抱えることも可能とし、あるいはテレワークで働くなど、働き方を大きく変化させている。また、様々なアイディアをかたちにする小規模であっても 革新的な起業家も、今後ますます増えていくことが期待されている。従って、英国政府 は、ポスト・コロナの未来を見据えて、新しく設立されたばかりで資金のない、しかし今後活躍が期待される革新的な企業への財政支援も積極的に表明している。

 さらに、英国政府は、5月11日、新型コロナウイルス危機から創造的なアプローチでの経済の回復と再稼働のためロードマップを策定するため、「リクリエーションとレジャー」「パブ及びレストラン」「小売店」「礼拝所」「国際航空」の5分野においてタスクフォースを立ち上げることを発表した。

 5月20日、「リクリエーションとレジャー」を所管するDCMS大臣オリバー・ダウデンは、新型コロナウイルスからの回復と再稼働のロードマップを作成するため 「文化再稼働タスクフォース(Cultural Renewal Taskforce)」を立ち上げた。文化再稼働タスクフォースのメンバーは、クリエイティブ産業及び文化芸術セクターの著名人8名(*)から構成されており、第1回目の会議は、5月22日に開催され、以後、毎週開催される。同タスクフォースの業務は8つのワーキンググループに分けられ、各分野の専門家が参加して議論される予定となっている。8つのワーキンググループは、イベント、博物館、美術館、文化遺産、観光、図書館などの領域をカバーしているが、今後、どのような議論が交わされるのか興味深いところである。

*──「文化再稼働タスクフォース(Cultural Renewal Taskforce)」のメンバーは以下の通り。
タマラ・ロホ(Tamara Rojo)イングリッシュ・ナショナル・バレエ 芸術監督
アレックス・スコット(Alex Scott) スポーツ・ブロード・キャスター、元イングランド 女子フットボール代表
ニコラス・セロタ(Nicholas Serota) アーツ・カウンシル・イングランド会長、元テート・ギャラリー ディレクター
エドワード・メラーズ (Edward Mellors) メラーズ・グループ・イベントディレクター
ニール・メンドーサ (Neil Mendoza)オックスフォード大学オリエル・カレッジ学長 ※メンドーサは起業家でもあり、クリエイティブ産業と金融産業双方でのキャリアがあり、同タスクフォースの立ち上げと同時に「文化による回復と再稼働のためのコミッショ ナー」に任命され、文化芸術及びクリエイティブ産業分野に関し政府に対しアドバイスを行うこととなっている。
マイケル・グレイド(Michael Grade) インフィニティ・クリエイティブ・メディア非代表取締役会長、制作会社12 タウン代表、元BBC会長
マーサ・レーン・フォックス(Martha Lane Fox) ラスト・ミニッツ社創業者。 ※ラスト・ミニッツ社は、オンラインのホリディパッケージ旅行会社。
マーク・コーネル(Mark Cornell) アンバサダー・シアター・グループCEO