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画家による論考集から根本敬論まで。8月号新着ブックリスト(1)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。画家・母袋俊也の論考集や香山リカによる根本敬論など、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+塚田優(視覚文化評論家)

『絵画へ 1990-2018 美術論集』

 制作と理論の両面から絵画にまつわる思索を続けてきた画家による論考集。ヨーロッパ絵画史をたどりながら画家独自の概念「フォーマート」の機能を検証する絵画論、実作に即して展開するゲーテ色彩試論をはじめ、過去に発表してきた短文エッセイ、批評家、学芸員らとの対談を収録する。画面がつくり出す視線の双方向性、ある風景をフレーミング化=膜状化することで現れるものについて、シリーズ制作がはらむ構造など、長い期間をかけて深められた制作の原理が浮かび上がってくる。(中島)

『絵画へ 1990-2018 美術論集』
母袋俊也=著 
論創社|3800円+税

 

『ヘイト・悪趣味・サブカルチャー─根本敬論』

 2017年にはミヅマアートギャラリーで個展も開催した、不条理かつシュールな作風で知られる特殊漫画家・根本敬を、ポリティカル・コレクトネスや差別問題も踏まえながら分析することで、作品の多様な側面と、後続に与えた論争的な影響を、私的な回想も交えながら整理した書き下ろし評論。サブカル誌からデビューし、旺盛な言論活動で時代を駆け抜けた著者が根本に託すのは、強硬な倫理やヘイトが一定の影響力を持ってしまう現代においても失われない、サブカルチャーの可能性にほかならない。(塚田)

『ヘイト・悪趣味・サブカルチャー─根本敬論』
香山リカ=著
太田出版|2200円+税

 

『絵画組成 絵具が語りはじめるとき』

 画材や技法、材料について知識を得、絵画の物質的な成り立ちを見極める目を養うこと。それは絵画の深い理解のためにも必要な過程である。袴田京太朗、丸山直文ら武蔵野美術大学で教鞭を執る9人の画家が、自身の体験に根差した表現論を寄稿。ある感覚を画面に定着させるプロセス、「物語」が展開するフィールドとしての絵画観、あるいは日本画を手掛かりとした空間論など、一線で活躍する画家の思考が垣間見える。作品の方向性を問わず、絵画制作に従事する人には参考になるはずだ。(中島)

『絵画組成 絵具が語りはじめるとき』
武蔵野美術大学油絵学科研究室=編
武蔵野美術大学出版局|3200円+税

『美術手帖』2019年8月号「BOOK」より)

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