ソーシャルメディアが、わたしたちの生活に浸透してから久しいが、情報流出や「SNS疲れ」といったネガティブな側面が話題にのぼることが少なくない。最近では、2016年のアメリカ大統領選のキャンペーンで、フェイスブックのユーザーデータを利用した、世論操作が試みられた疑いが浮上するなど、社会性の高い問題にもソーシャルメディアが深く関わるようになってきている。
そのようななか、新しいソーシャルメディア「Are.na(アリーナ)」 がひそかに注目を集めている。創立者は、アーティストとしてのバックグラウンドを持つチャールズ・ブロスコスキ。「ユーザーをSNS中毒にし、広告を売って、個人情報の収集を行う主要ソーシャルメディアは崩壊している」という問題意識から、アーティスト数名とともに「Are.na」をスタートさせた。「いいね!」も、広告も、集中を妨げるコンテンツもない、「アイデアや知識を整理し、発展させること」に主眼を置いたサービスだ。
例えるなら、「Dropbox」や「Evernote」のような、クラウドストレージの機能に、他のユーザーとつながれるソーシャルメディアの要素が融合したものと言えるだろう。「好奇心が尊重され、コラボレーションが自然発生し、様々な形の創造的思考が展開するスペース」を目指しているという。
「Are.na」の一番大きな特徴は、極めてシンプルなインターフェイス。思考の流れが邪魔されることがないように、広告は一切ない。見た目の清々しさは圧倒的で、普段どれだけ広告を見慣れているか実感させられる。
基本構造は、ユーザーがつくる「チャンネル」と、そこに追加されるコンテンツに相当する「ブロック」からなる。それぞれを、「フォルダ」と「ファイル」として考えると分かりやすい。ブロックを追加する際、ユーザーは保存先のチャンネルを選ぶ必要があるが、この一手間に、「Are.na」の狙いはある。
ワンクリックで済んでしまう、「いいね」や「シェア」のような機能はあえて省かれているため、ユーザーは気に入ったコンテンツを共有する際、どのチャンネルに追加するか考えなくてはならない。ブロスコスキは、このコンテンツを「定義」する作業によって、ユーザーは自ずと能動的に情報と向き合うようになると考えている。リアルタイムで流れてくるフィードを惰性でスクロールする仕様の大手SNS各種とは、大きく異なる点だ。この一見面倒なステップが入ることで、ユーザーは情報の扱いに意識的になり、共有されるコンテンツの質も上がっていくことが期待されている。
アーティストたちによってつくられたということもあり、ビジュアルメディアを共有するのに適したインターフェイスになっているが、画像、動画のほかにも、URL、PDF、テキストなどにも対応している。またチャンネルの中身は、HTML、PDF、ZIPファイルなどに書き出すことができる。チャンネルはポートフォリオのように使ったり、ユーザー間で共有しプロジェクトを進めたり、いろいろなかたちで利用することが可能だ。
15年のローンチ以降、ゆっくりながら着実に伸びていた利用者数は、去年あたりから急速に増え始めている。アーティスト、デザイナー、建築家、アートディレクターなどがメインユーザーで、現在の利用者数は4万人ほど。今後はクリエイティブ分野以外の利用者も加わり、分野を超えたコラボレーションが生まれることを、ブロスコスキたちは望んでいる。
愛用者は、「Are.na」を「ソーシャルメディア嫌いのためのソーシャルメディア」と呼ぶ。有意義な情報を交換しながら、有意義なネットワークを築くという、高い理想を掲げる「Are.na」。既存のソーシャルメディアに食傷気味になっている人には、一見の価値はある。メインストリームのソーシャルメディアに代わる存在になれるのか、これからの展開が期待される。