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次代を担うのは誰だ?
クマ財団が支援する次時代の学生クリエイターたち (1)

公益財団法人クマ財団が、次代を担う学生クリエイターの活動を支援・育成することを目的に昨年から始めた「クリエイター奨学金」。その第1期奨学生50人の中から、現代美術の分野で特に注目したいアーティスト7人をピックアップ。全3回にわたって紹介する。第1弾は映像や写真など多様な表現によるミクストメディアインスタレーションの作品を手がけるスクリプカリウ落合安奈と、プログラミングを駆使した舞台制作やインスタレーションを制作する岡ともみ。

文=藤生新

スクリプカリウ落合安奈の個展「Intersect」展示風景 撮影=松尾宇人

|「重なり合い」を追求する―スクリプカリウ落合安奈

 スクリプカリウ落合安奈は、1992年埼玉県生まれ、2016年に東京藝術大学美術学部油画専攻を首席及び、美術学部全専攻の首席総代として卒業し、現在は同大学大学院のグローバルアートプラクティス専攻に在籍している。日本とルーマニアという2つの国にルーツを持つ彼女は、アニミズムや文化人類学に関わる事象への関心のもと、世界中の国へ赴き、旺盛なリサーチや制作を行っている。

 スクリプカリウ落合安奈 向こうの、うらがわ 2015- 撮影=落合由利子

 2015年から続く《向こうの、うらがわ》と題されたプロジェクトでは、イスタンブールと逗子の海の写真を立体的な「海の壁」に仕立て、現実の海の前と偽物の「海の壁」の前に人を佇ませて撮影した写真を並べることによって、表向きには同じようでも実際には異なる「背景」への想像力を促している。またここで壁に仕立てられた海は、人々の移動を「阻む」ものであると同時に、潮流などによって人々を「つなぐ」存在でもある。

 最新作の《Intersect》では、日本と欧州で集められた約100年前のガラス絵のイメージが、それぞれ異なる速度で回転する18機の幻灯機によって投影されている。もともと異なる時間と空間に存在していたイメージが、「ここ」という時空でランダムに重なり合うさまを指して落合は、それを「融和と感じるか衝突と感じるかは、見る人によって異なってくると思います。そんなふうに、ひとつの事象に対して人それぞれ見え方が異なるということを大事にしていきたいんです」と語る。

スクリプカリウ落合安奈 Intersect 2017 技術協力=大橋鉄郎

 ここで語られる「融和と衝突」のように、ひとつの場所で相対する概念が同時に存在するさまは、先ほどの「海の壁」が人の移動を「阻む」ものであるとともに「つなぐ」ものでもあったことと共通している。その意図については、「時間的にも空間的にも離れたところにある東洋的・西洋的なイメージが、「ここ」で重なり合うことによって生まれるひずんだ状況を生み出すことに興味があるんです」と話していた。

スクリプカリウ落合安奈

 そして現在、落合は世界中の土着的な「祭」をテーマにしたリサーチを行っている。なぜ「祭」なのか? その背景には、彼女にとって忘れられない体験があった。それは、初めてアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所跡を訪れたときのことである。現在の強制収容所跡は、かつての悲劇をほとんど感じさせないほどに整備が行き届き、たどり着くまでに固めた覚悟を裏切るような社会科見学に近い感覚に陥った。そんななか、ふと前を行く正装したユダヤ人の見学集団に気がついた。彼らが収容者の肩掛けが展示されている部屋を通り過ぎようとしたとき、最後尾の数名の中から微かな歌声が聞こえてきた。真偽を確かめる術はないがそれは、自然と口から漏れた祈りの歌だと確信した。彼の肩にかかっているもの(現在)、そしてガラス越しのかつての収容者の肩掛け(過去)が、生きている時代の違いを超えて急速につながっていくのを感じたという。

 過去と現在という異なる時空が「ここ」で重なる際(さい・きわ)に立ち現れるものが、落合の考える「祭」の本質である。そして、このような「重なり合い」を落合はこれまでの制作でも一貫して追求してきた。今年は、自身のルーツであるルーマニアへも祭のリサーチのため実地調査を行っているという。これからの展開にぜひ期待を寄せてほしい。

スクリプカリウ落合安奈 新作に向けたルーマニアの祭のリサーチより

|空間への精緻な取り組み―岡ともみ

 岡ともみは、1992年東京都生まれ、筑波大学芸術専門学群デザイン専攻を中退し、現在は東京藝術大学美術学部先端藝術表現科に在籍している。プロジェクターの特性をつかった映像表現を得意とし、個人名義でインスタレーション作品を制作するかたわらで、クリエイティブユニットZEN-NOKAN(ゼンノウカン)の代表として舞台制作や演出も手がけている。

Dance×Projection-mappingの様子 撮影=伊東五津美

 そんな岡の活動は、技術的には映像プロジェクションやライティングによって空間をセッティングするという面から説明できるものが多い。舞台上のライトが強い場合映像は見えづらくなるが、それらを同時に投射した上で、少しずつライトを弱くしていくことによって映像が立ち現れてくる様子を演出したり、舞台上にライトを当てて演者の立体感をつくった上で、徐々に光量を増やしていくことによって演者を平面的に見せていったりするなどの演出を行っているそうである。

 2016年に行った『Dance×Projection-mapping』という自主公演では、前後に行き来するための細い隙間を開けたスクリーンを挟むかたちでプロジェクターを置き、ダンサーのパフォーマンスを映像や手描きアニメーションを駆使して演出した。その際、例えば手前のプロジェクターからは赤い光を出し、奥のプロジェクターからは青い光を出したとして、そのどちらかを人が横切った際には片方の光だけが遮断されるのに伴って影の色が変化することになる。そのように、シンプルではあるが効果的な操作を幾重にも組み合わせることによって、岡の演出はひとつの「表現」を立ち上がらせようとしているのだ。

Dance×Projection-mappingの様子 撮影=伊東五津美

 そんな彼女の取り組み全体に共通しているのは「時間軸がある」という点である。中学時代から筑波大時代にかけて音楽に取り組んだが、時間軸のある事柄や動的に変化する現象に強い興味を抱いていることを自覚したのは、東京藝大で映像をつくり始めて以降のことだったという。そんな来歴も影響してか、彼女はとりわけ空間における音の持つ力について洞察している。「音楽には、最終的に空間を決めてしまうところがあります。出来上がった空間に最後に音を加えるとしたら、それによって空間の印象が持っていかれて、場の意味や雰囲気が変わりうるので、音の持つ力は強いと思っています」。さらに音響に関しても「普通にステレオで出すのかサラウンドで出すのか音源を動かすのかによっても、その空間の定義を左右するなという感じがありますね」と語るなど、強いこだわりを見せる。そのため、チームで制作をする場合、最初に考えるのはいつも音楽やサウンドのメンバーであると言う。

岡ともみ

 そのような空間への精緻な取り組みが評価され、近年では17年に舞踏カンパニー・大駱駝艦の映像設計を担当し、18年の卒業作品展では卒業制作《岡山市柳町1-8-19》が「首席」に当たる買い上げ賞を受賞した。その活動は、ソロ・ユニットの双方でこれからも幅広く展開していくことだろう。岡・ZEN-NOKANの続く活動にも期待したい。

岡山市柳町1-8-19 撮影=野口翔平 音=小林有毅 建築物設計・制作=荒木遼

編集部

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