舘鼻則孝「PRIMARY COLORS」

　舘鼻則孝の個展「PRIMARY COLORS」がKOSAKU KANECHIKAで開催される。

　東京の伝統産業に焦点を当てた「江⼾東京リシンク展」のディレクションが記憶に新しい舘鼻。本展では、⾊素を⽤いず光の反射によって⽣じる発⾊現象である「構造⾊」を発現させる、特殊なインクを⽤いた新シリーズ「Primary Colors」を発表する。

「構造⾊」とは、光の波⻑程度の微細構造によって⽣じる発⾊現象のこと。鮮やかな⾊彩を特⻑とし、⾃然界ではモルフォ蝶やタマムシ、⾙殻などの例が挙げられる。「構造⾊」を⽤いた特殊なインクには、⾊素となる染料や顔料が含まれず、定着時にインク膜内に微細構造を形成する技術によって⾊が発現する。

　今回の「Primary Colors」シリーズで舘鼻は、富⼠フイルム株式会社の開発した「構造⾊インクジェット技術」の技術協⼒を得て制作。デジタルデータを⽤いて意匠性に優れた加飾印刷を可能にする、このような構造⾊を発現させるインクを⽤いたインクジェット技術は世界的にも⾰新的で、本展が初公開となる。

　新作「Primary Colors」では、構造⾊が発現するインクが塗布された樹脂シートにアクリル絵具を彩⾊することで、⾊⾯を⽣成している。表⾯に⾒ることができる図像は、舘鼻⾃⾝が本作のために撮影した被写体である「雲」の画像を複数枚合成したもので、これまでにも舘鼻作品のテーマとなっている「⼀対の視点」というとらえ⽅ともつながっている。

　雲による表現は、国宝《洛中洛外図屏⾵》でも⾒受けられるような、眼下に広がる⼈々の⽣活の有様をフレームし分節することで、複数の視点を1枚の画⾯のなかに成⽴させるという役割も担っている。「天と地」や「⽣と死」といった、舘鼻が⽰す「⼀対の視点」による⽇本独⾃の価値観を象徴するモチーフであるともいえる。

　今作で舘鼻が採⽤した素材は⾰新的なものだが、その背景には伝統⼯芸技法を活かした創作を続けるなかで⽣まれた視点がある。富⼭県の⾼岡漆器における伝統的な装飾技法として継承される螺鈿（らでん）など、⾃然界に存在する魅⼒的な素材や原材料を⽤いた作品をこれまで多く制作し、⾃然界に存在する構造による発⾊現象を作品に取り⼊れてきたことが、今回の着想の源となった。

　新作で⽤いている構造⾊インクは、物質的な制約から解放された視覚的に偏向した作品を⽣み出すきっかけとなったいっぽう、フォームに対するアプローチをどうとらえるべきかという点についての考えはまだ途上にあり、創作を通して答えを導き出したいと、舘鼻は述べている。