日本の伝統文化を現代美術として表現することで知られており、これまで「Rethink(リシンク)」という言葉を冠した展覧会を度々開催してきたアーティスト・舘鼻則孝。そんな舘鼻をディレクターとして迎え、江戸東京から受け継がれてきた伝統産業事業者とのコラボレーションにより生まれたのが、オンライン展覧会「江戸東京リシンク展 –旧岩崎邸庭園で見るアートが紡ぐ伝統産業の未来–」だ。
江戸東京の伝統に根差した技術や産品などを新しい視点から磨き上げ、世界へと発信していく「江戸東京きらりプロジェクト」の一環として、昨年初めてオンラインで開催された「江戸東京リシンク展」。今年は、前年に継続して舘鼻が8種類の伝統産業事業者とコラボレーションして新たに制作した作品や、それぞれの事業者に関する歴史的資料を公開している。
実際の展示会場となるのは、国の重要文化財であり、三菱第3代社長の岩崎久彌の本邸だった旧岩崎邸庭園。オンライン展では、舘鼻と各事業者とのコラボ作品や関連資料を旧岩崎邸庭園内の客室や集会室、撞球室など魅力的な建築空間で記録した写真を、各作品や事業者に関する説明文とともに紹介している。
今年の展覧会に参加したのは、小町紅 伊勢半本店、江戸木版画 高橋工房、江戸切子 華硝、江戸木目込人形 松崎人形、和太鼓 宮本卯之助商店、木目金 杢目金屋、東京くみひも 龍工房、金唐紙研究所(特別協力)の8事業者。本レポートでは、その一部をピックアップして紹介したい。
旧岩崎邸庭園洋館2階客室の壁面には、「金唐革紙」と呼ばれる壁紙が施されている。2003年、国選定保存技術保持者の上田尚が率いる金唐紙研究所は、当時旧岩崎邸庭園に使用されていた同様の壁紙を復元。本展では、舘鼻が金唐革紙を用いて制作したヒールレスシューズのほか、壁紙の型打ち時に使用する打刷毛や版木ロールなどを見ることもできる。
洋館1階の客室・婦人客室では、和太鼓や神輿を制作する工房「宮本卯之助商店」とのコラボ作品が展示。宮本卯之助商店の職人が制作した太鼓には、舘鼻の代表的なモチーフのひとつである「雷」の模様が描画されている。また、7つの4.5寸の小さな太鼓は同じ栗の材料によって円形に連結されており、雷神の持つ雷鼓をも表している。
洋館1階のサンルームには、江戸切子の工房「華硝」とのコラボ作品が出現。華硝は、伝統的な紋様だけでなく、独自に考案した紋様も数多く発信している。今回の作品では「米つなぎ」の紋様が用いられており、五穀豊穣への祈りも込められているという。いっぽう、雷の光が稲穂を実らせるという話から「稲妻」もモチーフとして使われており、「米つなぎ」との親和性をいっそう感じとることができるだろう。
また展覧会のスペシャルサイトでは、舘鼻による作品解説のスペシャルムービーも公開されている。2回目の「江戸東京リシンク展」の開催にあたり舘鼻は「美術手帖」に対し、「より突っ込んだコラボレーションや新しい試みに取り組んだ」とし、「新しい事業者とのコラボレーションでは色々模索しながら、いままでやったことがないような表現や素材を用いることに積極的に挑戦していただいた」と語っている。
「『リシンク』というものを実際に事業者の方や僕が共有することによって表現につながり、作品を通して鑑賞者の方々にもその思いが伝わると思っている」。伝統と革新が交錯する多様な表現を通し、江戸東京の文化や魅力についてリシンクする機会をお見逃しなく。