EXHIBITIONS

崔在銀「The Oldest Story of Today …」

2022.04.08 - 05.28

崔在銀 Messenger 2022 Photo by Yusuke Suzuki

 MISA SHIN GALLERYは、崔在銀(チェ・ジェウン)による個展「The Oldest Story of Today …」を開催する。

 崔は1953年ソウル生まれ。草月流を経て、三代目家元・勅使河原宏のアシスタントとして数々のインスタレーションや、映画『利休』の制作などに携わった。80年代より生命や時間をテーマに作品を制作している。

  2017年以来の個展となる本展では、新作インスタレーションを発表。塩と灰、そして鹿、それらの上を流れる空の写真作品、小さな雫の落ちる音で構成され、太古から続く時間と生命の無限の廻転からなる物語を、叙事詩的な構成で静かに浮かび上がらせる。

 床に小高く積み上げられた塩の一部は灰に覆われ、金色の脚を持つ鹿の彫刻が一頭配置される。人間が生きていく上で欠かせない塩、その上に撒かれた灰は、炎によって崩壊し、再び戻ることなく保存もされない幾多の犠牲に対する、失われた記憶を呼び起こす。

 世界各地の神話に登場する鹿だが、ギリシャ神話では神の存在を盗み見た罰として鹿に変えられたアクタイオーンが知られている。本作で金色に染まった鹿の脚は、見てはならないものを見た罪で罰を受けた犠牲者として、その原罪的な視線を通じて姿を現した、世界と自然の秘密を象徴している。

 塩と灰、鹿の上には空の写真作品が流れる。崔が2011年にイタリアプーリア州の海辺のオリーブ園で行った「Puglia Sky Project」プロジェクトから、日没と夜明けにそれぞれ9分間にわたり刻々と変化していく空を撮影した、計18枚の写真が並ぶ。東西を海で囲まれ、多くの民族や権力者から支配されてきた長い歴史を持つプーリア州の村において撮影された一連の写真は、宇宙の変わらないサイクルとその下で異なる時を生きる私たちの時間が対比されている。

 崔は今回のインスタレーションにおいて、宇宙の時間軸のなかで、刹那に過ぎないあらゆる生き物の時間の循環と共有を独自の言葉で提示する。本作は、人間のたどってきた道、現在の社会や世界の状況など様々なことに思いをめぐらせるきっかけになるだろう。