EXHIBITIONS

大山エンリコイサム「Paint Blister」

大山エンリコイサム FFIGURATI #366 © Enrico Isamu Oyama

ペイントブリスター:塗膜と⽀持体のあいだに⽣じる気泡やふくれ(イメージ)

大山エンリコイサム FFIGURATI #9 2009 Artwork © Enrico Isamu Oyama, Photo © Shu Nakagawa

 NADiff a/p/a/r/tで、⼤⼭エンリコイサムの個展「Paint Blister」が開催される。会期は2月25日~3月21日。

 ⼤⼭は、エアロゾル・ライティングのヴィジュアルを再解釈し、メディアを横断して表現するアーティスト。1970〜80年代のニューヨークで始まったライティング文化に影響され、その特有の線の動きを抽出し、再構成することで⽣み出された独⾃のモチーフ「クイックターン・ストラクチャー」を国内外で展開してきた。

 これまで作品制作にとどまらず、複数の著作を刊行するなど、ストリートアートの批評やライティング⽂化の研究にも取り組んでいる。また、コム デ ギャルソンやシュウ ウエムラといった企業やブランドとのコラボレーションも行い、今年1月には、⼤⼭が⼿がけた横綱・照ノ富⼠の「三つ揃え化粧廻し」のアートワークが話題となった。

 日米にスタジオを構え、ニューヨークへの渡航を控える大山。渡航前の最後の個展となる本展では、ストリートアートの考察から得られた「Paint Blister(ペイントブリスター)」のコンセプトを軸に、新たな壁⾯作品やインスタレーションを発表する。

「Paint Blister」は、塗膜と⽀持体のあいだに⽣じる気泡やふくれを指し、本来は避けるべきだが下地処理をしない無許可のストリートアートにもよく見られる現象だ。大山は、塗装作業や絵画作品の制作、カッティングシートによる壁画作品の施工など、自らの創作のうちに観察される小さな出来事として、それを気に留めてきた。本展は、そのブリスターをめぐる作家の想像力を起点に構想される。

 ⼤⼭は、会場となるNADiff a/p/a/r/tの各所に作品を設置。地下のNADiff Galleryでは壁⾯にブリスターを施し、東京藝術大学大学院の修了制作で発表した初期作《FFIGURATI #9》を展⽰する。本作は当時、エアロゾル・ライティングの正⾯性を検討し、「純粋正⾯」という膜状のクイックターン・ストラクチャーのイメージから⽣まれた⽴体作品だが、本展では、壁⾯のブリスターが重なることで、空間に溶け込んだ彫刻インスタレーションに変容する。

 いっぽう地上のガラス壁⾯には、カッティングシートを素材とした6メートルを超える新作のクイックターン・ストラクチャーを会期中限定で展⽰。 NADiff a/p/a/r/tの建築にあわせて制作された本作には、特殊なシートが⽤いられ、店外からはシート表⾯のかすかなふくれが、店内からはシート裏⾯の気泡を⾒ることができる。さらに、大山とNADiff a/p/a/r/tのコラボレーションにより、本展のテーマに基づいて制作されたオリジナルのマルチプル作品も発表される。

 ⼤⼭にとって「ペイントブリスター」は、物質とメタファーの両⾯からストリートアートをひもとく概念であり、これまでの活動が示してきたクイックターン・ストラクチャーの多面的な可能性にさらなる次元を加える、本展に特有の新たなキーワードとなる。大山の最新の作品世界に注目してほしい。

 なお本展オリジナルのマルチプル作品の詳細は、オンラインマーケットプレイス「OIL by 美術⼿帖」(2⽉24⽇ 13:00〜)にて案内する。