EXHIBITIONS

ロニ・ホーン「bird」

ロニ・ホーン bird 1998 / 2008(部分) © Roni Horn Courtesy of the artist, Taka Ishii Gallery and Hauser & Wirth

 タカ・イシイギャラリーは、ロニ・ホーンの個展「bird」を開催。現在、ポーラ美術館にて開催中の大規模個展「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」のサテライト展として、2点組の作品10組で構成される写真インスタレーション作品を展示する。

 ホーンは1955年生まれ、ニューヨーク在住。写真、彫刻、ドローイング、パフォーマンス、本など多様なメディアでコンセプチュアルな作品を制作。75年から今日まで継続して、人里離れた辺境の風景を求めてアイスランド中をくまなく旅し、このなかで経験した「孤独」は、自身の人生と作品に大きな影響を与えている。

 水盤のように見える鋳造ガラスの立体作品や、静かに佇む一卵性双生児のような一組のフクロウの写真作品、描かれたテキストを何度も切り貼りすることで解体・再構築した大型ドローイング作品など、ホーンは様々なメディウムを用いて、多義性に基づいた作品を手がけてきた。そこでは、ガラスの立体作品がすべて固体なのか、あるいは一部が液体なのか判別がつかないように、2点のフクロウの写真も同じイメージなのか別のイメージなのか、また同じ個体なのか別の個体なのかは明らかにされない。分類されることを周到に逃れるホーンの作品は、作品を読み解こうとする鑑賞者の好奇心を強く刺激し、解決しない謎は、作品の経験を一層長引かせる。

 またホーンの作品では、イメージ間の相互作用とともに言葉が重要な役割を担う。例えば、エミリ・ディキンスンが書いた手紙の言葉を引用した、アルミニウムの立体で構成されるインスタレーション作品《エミリのブーケ》(2006〜07)は、著名な詩人の言葉への賛辞であるとともに、コンセプチュアルな世界への扉を開く鍵であると理解できるだろう。

 ほかの作品には「鳥葬」「円周率」「または」「無題(「事故の最中にしか、速度は生じない。」)」など、作品とは直接関係のない言葉や引用文がタイトルとして与えられている。こうした、これまで作家が出会い、書き留めた言葉が添えられることで、私たちが理解しようとするホーンの手による立体、ドローイング、写真作品と本は、より深い文脈を獲得する。

 本展では、長年撮影されてきた「Untitled(bird)」シリーズの極点に位置する、10組の写真インスタレーション作品を展示。被写体であるアイスランドに生息する野鳥の剥製は、カメラのレンズに背を向けており、その表情を窺い知ることができない。鳥種を特定するための情報は最小限に留められるいっぽう、大判カメラによる精細な写真描写により、1対の標本間の差異が強調される。鑑賞者の目に映るのは2羽の野鳥の後頭部の滑らかな輪郭、優美な曲線と色彩、複雑なテクスチャのみで、それはまるで視覚的隠喩を「読む」ことを促されるかのようだ。

 タカ・イシイギャラリーでの個展「bird」の会期は1月8日~2月5日。いっぽうポーラ美術館での大規模個展「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」は3月30日まで。