EXHIBITIONS

「転移のすがた」アーティスト・レジデンシー10周年記念展

Main Visual © Denis Boulze

クロエ・ケナム La Grande Place 2020 © Tadzio / Fondation d'entreprise Hermès

エンツォ・ミアネス La Portée du geste 2020 © Tadzio / Fondation d'entreprise Hermès

小平篤乃生 Instrument pour Saint-Louis 2012 © Tadzio / Fondation d'entreprise Hermès

Artist and Mentor at the workshop (Atsunobu Kohira and Giuseppe Penone)  2011 © Tadzio / Fondation d'entreprise Hermès

 エルメス財団が主催する「アーティスト・レジデンシー」は、アーティストをエルメスの工房に招聘し、職人と体験の共有や協働制作を行う財団のプログラム。2010年より継続して実施され、現在までに34人のアーティストが21ヶ所の工房に滞在し、皮革やシルク、クリスタル、シルバーなどの様々な素材を用いながら、職人技術にふれ、好奇心に満ちた作品を生み出してきた。これまでの活動の成果は、「コンダンサシオン」展(パリ、2013/東京、2014)、「眠らない手」展(パリ、2017/東京、2018)を通して紹介された。

 アーティスト・レジデンシーの10周年を記念する本展「転移のすがた」は、ソウル、東京、パンタン(パリ郊外)で同時期に開催され、過去10年間の歩みのなか、職人、アーティスト、メンターのあいだで、交わされ、紡がれてきた様々な「転移」のすがたを、3都市それぞれ異なる視点から複層的に回顧する。

 銀座メゾンエルメス フォーラムでは、2020~2021年のプログラムに参加した滞在アーティストと推薦者(メンター)の関係性に着目し、それぞれの作品のあいだに見出される共鳴やある種の共犯関係を明るみにする。参加アーティスト/メンターは、クロエ・ケナム/イザベル・コルナロ(メンター)、エンツォ・ミアネス/ミシェル・ブラジー(メンター)、小平篤乃生/ジュゼッペ・ペノーネ(メンター)。

 レジデンシーで制作された作品だけでなく、メンターと滞在アーティスト6人の作品を一望する展示を通じて、師弟関係にとどまらない、芸術的感性が応答しあうアーティスト同志としての姿も読み取ることができるだろう。なおソウルのアトリエ・エルメスでは革に焦点を当て、この魅惑的な素材だからこそできる様々な芸術的アプローチを提示。最後に、パンタンのマガザン・ジェネロー(アート・スペース)の展示では、すべてのアーティストを紹介することで、プログラムの全容を再見し、その豊かさを紹介する。

 10周年記念展のディレクター、ガエル・シャルボーは、タイトル「転移のすがた」について、次のように説明している。

「『転移』とは、現在の出逢いの中に、過去の欲望が再現されるメカニズムを意味する精神分析の用語を参照しています。アートの世界と職人技の世界が、レジデンシーの時間のなかで一体化してゆく過程の象徴として用いました。私たちの心の内に深く根ざした名状し難い何かが、ひとつのかたちに辿り着くまでには長い時間がかかります。その時間によって転移が生まれるのです」。