EXHIBITIONS

名和晃平「Wandering」

名和晃平 Wandering 1996 © Kohei Nawa Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film and SCAI THE BATHHOUSE

名和晃平 Wandering 1996 © Kohei Nawa Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film and SCAI THE BATHHOUSE

 名和晃平による写真展「Wandering」がタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで開催。本展では、名和が大学在学時代に撮影した数多くの写真のなかから、作品約25点を展示する。

 名和は1975年大阪府生まれ。京都在住。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学を経て、2003年に京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程を修了。アジアン・カルチュラル・カウンシルの支援によりニューヨーク、ダイムラー・クライスラーによりベルリンに滞在(2005〜06)。09年、京都にクリエイティブ・プラットフォーム「SANDWICH」創設し、ディレクターも務めている。

 シリコーンオイルで満たされた水槽の中を水の粒子が落下する「Water Cell」や、菌類が重力に抗って成長するさまをグルーガンで壁に直接描いた「Catalyst」、巨大な水の泡が生成と消滅を繰り返す「Foam」など、名和は、「Cell(細胞)」という概念をもとに彫刻の枠組みを解体し、インスタレーション、建築、舞台美術といった様々なメディウムを横断した新たな視触覚経験へと誘う独自の造形言語を確立した。

「Cell」は、色やテクスチャー、素材感などオブジェクトの表皮を知覚する人間の感覚器官細胞でもある。インターネットを介して手に入れた動物の剥製や玩具などの表面をクリスタルガラスの球体(レンズ)で覆った作品「PixCell」によって名和は、カメラ(現在はスマートフォン)のレンズを経てインターネット上に日々形成される膨大なイメージの大海に世界が飲み込まれ、ものの表皮である物質性が希薄化し、世界が映像化するデジタル時代の幕開けを鋭く指摘する。

 本展で初公開される写真は、この「PixCell」シリーズの原型となる作品が生まれた2000年の直前、京都市立芸術大学在学中の数年間で撮影されたもの。35ミリフィルムカメラを手に京都の町を歩いた名和がスナップショットで撮影した写真は、演出されることなく、偶然出会った被写体が控えめな距離感で時に思いがけない構図で切り取られている。その後、世界の表層への関心を基点に名和は作品を展開していくが、これらの写真作品からはその胎動を感じ取ることができる。