EXHIBITIONS

多田由美子「プウルの傍で」

theca(コ本や内)
2024.10.05 - 10.27

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 theca(コ本や内)で、多田由美子による個展「プウルの傍で」が開催されている。

 本展に寄せて、多田は次のように述べている。

「描くこと、あるいは書くこと、これらはどちらも手を使った動作の表れです。同じ人物から生まれ出てくるこのふたつの表現物には、当然何らかの関係性があり、それがどう関係しているのか、とても興味深いと思っています。それらは併走しているのか、あるいは交差するのか、重なりなのか混在なのか。脳の仕組みを鑑みても、どのような回路でつながっているのか単純には解明できません。形象としてのドローイングは文字に近づき、流れるような達筆な文字はドローイングに見えることがあります。文字の起源が絵文字だったことを前提にすれば、どこから絵でどこからが文字なのか判別できず、もともとはどちらも伝達の手段です。しかし手段が同じでも、コンテンツは違って見えます。それは時代が進むにつれ、複雑になっているように思えます。

 描くことを紐解く—例えば絵画について考えようとするときに、日用品やすでにそこにある形式を借用するなどして、およそ絵画らしくない素材や方法を使って、絵画の要素を還元することによって、絵画を脱構築してみる。絵の具から離れることによって、形や色や素材の抽象的な組みあわせに目が行き、絵画的な思考を整理することができます。それはたんなる知的好奇心から出発するのですが、この遠回り、これを大切にしたいと思っています。

 展示のタイトル『プウルの傍で』は中島敦の初期の未発表小説の題名から取りました。中島敦は儒学学者の家系に育ち、植民地だった朝鮮で多感な中学時代を過ごしました。高卒業後は女子校の教師をしながら、戦前戦中の5年という短いあいだに30遍ほどの珠玉の作品を残しています。精査された言葉で書くことによって、人間の尊厳を語り、それによって根底から社会を変えようとする姿勢に、喚起されるところはあると思います。

 今回の展示は、中島敦の文章から想を得た絵を描き、中島敦の『プウルの傍で』を参照した小説を書き、それを同一空間に設置することで『描くこと/書くこと』の意味を探ります」(展覧会ウェブサイトより)。