EXHIBITIONS

HIRAKU Project Vol. 16

鈴木のぞみ「The Mirror, the Window, and the Telescope」

2024.06.08 - 12.01

鈴木のぞみ The Rings of Saturn:舷窓-アイリッシュ海 2020 北川正人蔵 写真:木暮伸也

 ポーラ美術館で「HIRAKU Project Vol. 16」として、鈴木のぞみによる個展「The Mirror, the Window, and the Telescope」が開催される。

 HIRAKU Projectは、過去にポーラ美術振興財団の助成を受けた作家を紹介する展覧会シリーズだ。第16回目となる今回は、写真の原理を用いて、身近な日用品や古い家屋に潜む記憶や光の痕跡を可視化し、オブジェとイメージによってインスタレーションを生み出す鈴木のぞみを紹介する。

 大学で絵画を専攻していた鈴木は、独学で写真技術を学び始め、2012年に自身のアトリエであった築90年の古民家の木枠付き窓ガラスを用いて作品を制作した。その窓から見えたであろう風景を撮影し、感光乳剤を塗布した窓ガラスそのものに焼き付ける。この邸宅のかつての住人が眺め、そして窓そのものが見つめてきた何気ない景色を、使い込まれた窓ガラスにおぼろげな像として現出させた。鈴木は、こうした日常のありふれたものに宿る「事物の記憶」を浮かび上がらせ、ものに直接定着させることを試みている。

 2019年に渡英した鈴木は、船の窓や望遠鏡、ルーペといった様々な遺物や視覚装置を入手し、その来歴を調査した。人類の視覚体験や近代化を切り開いてきた科学や技術の進歩、そしてある時代や社会が共有する感覚や嗜好性を反映したイメージが焼き付けられ、「大衆の記憶」を暗示するような作品へと昇華させている。

 今回のタイトルにあるMirror(鏡)とWindow(窓)は、絵画や写真の発展に不可欠だった要素であり、Telescope(望遠鏡)は人間の「見たい」という欲望を叶えた科学装置だ。それらが留めてきた記憶や痕跡と真摯に向きあう鈴木の作品は、私たちに写真表現の原初的な姿や、大きな歴史の流れと私的な「個」のストーリーに潜む、去りゆく時間や消えゆく光景について思いを馳せる機会を与えてくれるだろう。