エヴェリン・タオチェン・ワン「An Organic Day -有機的な一日」

　KAYOKOYUKIで、エヴェリン・タオチェン・ワンの個展「An Organic Day」が開催されている。

　エヴェリンは1981年中国生まれ、現在はロッテルダム在住。中国で絵画を学んだ後、フランクフルトのシュテーデルシューレ（Städelschule）を卒業し、2012年より、アムステルダムのレジデント・アーティストとして2年間滞在した。絵画、ドローイング、書、パフォーマンス、インスタレーションなど、多様なメディアを使用し、断片的、逆説的な物語を記憶や想像力によって重層的に融合させた作品を制作する。

　中国からの移民としてオランダで活動するエヴェリンの作品は、作家自身が身を置く社会的背景に深く根ざしており、ジェンダーや帰属、文化的アイデンティティといったテーマが横断的に扱われている。論争を招きやすいテーマに対し、エヴェリンは、男性／女性、西洋／東洋といった単純な二項対立的な手法を避け、独創的で詩的なユーモアによってアプローチし「自己とは何か」という根源的とも言える問題と向き合い続けている。

　本展は、油彩画、紙や絹本のドローイングという複数の異なる素材と手法による作品から構成される。ここには西洋と東洋の絵画における美術史の根本的な差異が示されているといえるが、エヴェリンはこれらを対立的に示すのではなく、異なる芸術的アイデンティティと素材を理解する可能性を体験するために拡張させている。 2点の《オランダ窓》の作品や《Wild Black Berry Picker》は、キャンバスに油絵具で描かれたいわゆる油彩画だが、エヴェリンは、その素材感や視覚的受容を無理なく自然に紙に描かれた水墨画の佇まいへと変化させている。

　エヴェリンの作品の多くには、超越的で深遠な表現と一見表面的で無関係なテキストが混在し、感情的、詩的、そして自伝的な表現が融合している。多面的な現象としてのアイデンティティの概念と戯れ、個人的な経験を芸術や美術史についての思想と結びつける。「自己とは何か」というテーマと向き合い、複数の表現媒体を扱いながら、それらを分け隔てることの正当性を疑い、その共存を積極的に受け入れてきた。