EXHIBITIONS

公文健太郎「地の肖像」

©︎Kentaro KUMON

 コミュニケーションギャラリーふげん社で公文健太郎の個展「地の肖像」が開催されている。

 公文は1981年兵庫県生まれのドキュメンタリー写真家。99年から12年間ネパールへ通うなかで出会った、ひとりの少女を追ったフォト・ドキュメンタリー『ゴマの洋品店』(偕成社、2010)で、日本写真協会賞新人賞を受賞した。

 その頃は海外での取材が多かった公文は、2011年に東日本大震災の被災地を訪れ、かつてその地で営まれていた人びとの生活を何も知らない事実に衝撃を受ける。それ以降、日本各地の農家を訪ね、農家と公私にわたる付き合いをしながら、第一次産業に携わる人びとの生活を丹念に取材してきた。北海道から沖縄まで各地の農家を取材した『耕す人』(2016)、北上川の源流から河口までの人びとの暮らしを記録した『暦川』(2019)、8つの半島に日本原風景を見出した『光の地形』(2020)(以上すべて平凡社)、人口減少の一途を辿る瀬戸内海に浮かぶ離島・手島を写した『眠る島』(2022、Kehrer)などの写真集を発表している。

 本展では、北は北海道から南は八重山諸島まで、12年から 23年までに撮影した写真から、長らく温めてきたテーマである「人間と自然の接点」を軸にセレクトした約30点を展示する。公文が長年取材を重ねてきた農業や漁業などの第一次産業は、言うまでもなく人間と自然が最も接近する場であり、決して思い通りにならない自然という大きすぎる存在とやり取りをしながら、日々の糧を得るため創意工夫をする、真剣勝負の場と言える。その現場には、里山という言葉に代表されるように、長い年月をかけて、人間が自然を開拓し、管理し、改変していった、絶え間ない努力の跡が見られる。

 近年、温暖化や異常気象の影響をダイレクトに受け、急速に変容してきた農家と漁業の現場で生まれる光景をも、公文のレンズはとらえる。公文が長年にわたり築き上げた関係性だからこそとらえることができた、現代のリアルな「地の肖像」は、人々の生きる時代を再考するきっかけを与えてくれるだろう。