EXHIBITIONS

熊谷亜莉沙「神はお許しになられるらしい」

2023.10.31 - 2024.01.13

熊谷亜莉沙 Say yes to me 2023 Photo: Hikari Okawara

 ギャラリー小柳で、熊谷亜莉沙の個展「神はお許しになられるらしい」が開催されている。

 熊谷はこれまで、自身のバックグラウンドが色濃く反映された作品を発表し、富裕と貧困、生と死、愛と憎しみという表裏一体の事象に焦点を当ててきた。卓越した写実表現で描く自身の家族史に密接に由来したモチーフから発展し、2022 年にギャラリー小柳で開催された「私はお前に生まれたかった」では、ニューヨークのセント・パトリック大聖堂にある天使像をモチーフとした作品を発表した。

 本展覧会では、カトリックに由来するモチーフを中心とした絵画と熊谷が綴った詩をまとめた詩集を展観する。祖父のブティックで取り扱っていたヴェルサーチのシャツや、絵画を志すきっかけとなったベラスケスのキリストの磔刑図など、カトリックにまつわるものから影響を受けてきた熊谷は、「祈り」や「暴力性」そして「権力」を同時に孕むその有様に自身の家族像を重ねあわせている。

 フランス・パリの教会で出会った、人の頭部を踏みつけているフランシスコ・ザビエルの石像の、救いへ向かうはずだった宗教的なものが暴力性を孕んでいるという矛盾、そして敬虔な聖職者という印象の強いザビエル像がもたらした不穏感が一際熊谷を惹きつけた。パリから帰国した後により深い探究のためにカトリック教会に通い、「美と権力・暴力と祈り」について探りながら制作に挑んだ熊谷にとって、カトリックのモチーフを描くことはこれまでの制作の延長線上である私的なことを普遍なものに接続する試みでもあるように見受けられている。

 本展では、綴った詩をひとつの詩集に収め、鑑賞者が手に取って会場を巡れるようにしている。本展覧会の出発点となった詩は、熊谷のパーソナルな感情や経験、過去と現実に向き合うことで生まれ、絵画と合わさり鑑賞者の内部に深く入り込む。人が抱える種々の問題を仄めかしながら、人が許すはずもない人の愚かさを謳いながらも、最後には「神だけは、おゆるしになられるらしい」と締めくくられている。