EXHIBITIONS

李禹煥「物質の肌合い」

2022.09.13 - 10.15

李禹煥 (左から)《突きより》(1972)、《刻みより》(1972)、《無題》(2008)※各作品:ディテール
写真=表恒匡 協力=SCAI THE BATHHOUSE

 李禹煥(リ・ウファン)の個展「物質の肌合い」がSCAI THE BATHHOUSEで開催される。

 1936年に韓国で生まれた李禹煥は、56年に来日し、60年代後半より本格的に制作を開始。戦後の日本美術史における重要な動向「もの派」を牽引してきた。現在は日本とフランスを拠点に活動。近年、国際的にますます注目され、日本では11月7日まで国立新美術館(東京)の15周年を記念する大規模な回顧展が開催中だ。

 SCAI THE BATHHOUSEで開催される「物質の肌合い」は、これまで李の主要な個展で紹介されてこなかった、木、紙、土による作品で構成。タブローや陶土の作品など70年代から80年代に制作された旧作は、李ののち展開の第一歩であり、やり直しが許されない「一筆一画」という、いまの李の仕事にも一貫している姿勢が示されている。

 木の板の表面にノミで刻み跡をつけたタブローは、差異を伴いながら反復される身体的な行為の痕跡として、作家の意識と外界の相互作用によって立ち現れる循環的な時間の概念や、そこに表出する無限といった、李の同時期の絵画作品にも通底する要素を多分に含む。紙による作品群では、箔のようにキャンバスに貼り合わせたり、薄墨に浸した筆で穴をうがいたり、表面を引っ掻いたりと、異なる手法が用いられているいっぽうで、元来、字が書かれたり絵が描かれたりすることで何らかの記号の支持体となりうる素材自体の繊細な物質性、そこから必然的にもたらされるかのような行為の一回性を共通して読み取ることができる。

 対して、陶土の作品では「つくらない」ことで、鑑賞者に空間や余白の広がりを強く意識させる構図が目立つ。自己を抑制し、制作過程における火という外的な要素の不確実性を受容する態度に象徴される、他者や外部を受け入れる開かれた関係性は、李の制作においてつねに重要なものであり続けてきた。

 本展と国立新美術館で開催中の回顧展とをあわせて鑑賞することで、半世紀以上に及ぶ作家の実践への理解をより深めることができるだろう。